チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年7月29日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 東シナ海や南シナ海での海洋覇権を目指した軍事的な動きとともに、鉄道のほか、石油等の資源権益を含む陸上のさまざまな経済覇権を掌中に収めようという、中国のあからさまな動きは、国際社会がうるさく批判しようが、事故や事件をいくつか起こして小休止を余儀なくされようが、大筋として今後も止むことはないであろう。むしろわれわれにとっての問題は、それと対峙せざるを得ないわが国の動きの如何である。

 現在、東北の被災地には、中国資本とつながるブローカーが多数暗躍している。この大半は当然、日本人、あるいは日本の業者だ。被災者が手放す可能性のある土地、森林、そして復興しようにも金策に困っている中小、零細のさまざまな企業に、中国マネーの誘惑が忍び寄っている。福島原発の20キロ圏内の不動産について、積極的な「買い」の声がかかっているとの情報もある。むろん、金のあるものが買う、という行為は経済の基本だから、それを全否定することはできない。しかし、当方が「弱り目」の事態にあっては、鉄道事故前後の一連の事柄が示すように、中国とは、つねにわれわれの想像を大きく超えた次元の思惑で動いている存在だということを思い出してみるべきではないのだろうか。

あの浅間山荘は
今や中国資本の手に落ちた

 この3年ほど伝えられてきた、中国資本による日本の森林買収の動きに関して私は昨年来取材を続けており、去る3月には『中国の「日本買収」計画』という拙著を上梓した。本書では、この外資による森林買収という問題の本質は、中国側の問題というよりむしろ日本のセキュリティ不在という問題であることを強調したつもりである。しかし、もちろん同時に中国という隣国が、そうしたわが国の弱点をどれほど熟知していて、さまざまな遵法の手段を使って巧みに攻略してきているか、をも書いた。

 本書刊行と同時期に、森林法の一部改正についての法案が衆議院を通り、この買収の動きに一定の歯止めがかかる可能性も出てきた。が、楽観視できないというのが私見である。

 そして、本書に収録したのちに発表された調査結果では、北海道を中心に各地の山林は依然着々と中国系資本によって買収されている。売買が判明した範囲のみのことではあるが、近年買われた北海道の森林の9割が水源や水土保全林といった「水」に絡む場所であり、ほかに自衛隊の拠点や原発、空港の近隣地が多数含まれることもはっきりしている。

 他方、北海道以外でも、これまで判明しなかった森林買収の実態が徐々に明らかになってきた。そのなかで50代以上の日本人にとっては、悪い意味で懐かしい場所といえる、長野県の浅間山荘も中国資本によって買収されていたことが明らかとなった。いうまでもなく長野県は、北海道と同じく、良質の水源を多く有する地方である。

 経済発展目覚ましく、一見、多くの市民が自由を満喫するようになったかにも見える中国は、依然として、否、おそらく今後も、われわれとは根本的に異質な哲学で動く国だ。これは民族的好悪の問題を超えた事実として押さえておくべきことである。さらに、国際協調とはいわばお題目で、各国がエゴ剥き出しといっていい国益獲得競争にしのぎを削る昨今、中国は、その異質な哲学を武器に、世界のスーパーパワーに登りつめようとしている国でもあるのだ。そんな国から日本に向けて発せられるさまざまな「行為」を、おしなべてただの商業行為とのみ捉えることの危うさを、今あらためて強く感じるのである。
 

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜


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