2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2018年11月1日

――次にレイプ被害について教えて下さい。レイプに関して「抵抗しなかったなら、同意したんでしょ」というステレオタイプな男性の声を聞きます。レイプドラッグを使っている場合を除き、実際に現場ではどのような状況になるのでしょうか?

小川:まず、レイプ被害は知り合いからの被害が多いことを知っておく必要があります。Aさんが「今日はBさんとセックスできる」と思いこんでいても、Bさんからしたら全くそんなつもりはなかったという状況の場合、アクションを起こされた時点で、Bさんはフリーズ(凍りつき)しまったり、驚いてうまく対応できないことがあります。たとえば尊敬している年長者に急に性的なアクションを起こされたときに、「尊敬していたけれど性的なことをする相手だとはまったく思っておらず恐怖を覚える」ということが実際にあります。尊敬していたからこれまでは相手に従順だったけれど、性的なことについては違う。けれど突然でどうしたらいいかわからないし、抵抗の仕方もわからない。相手に失礼と思ってしまう。そういうBさんの動揺を、Aさんは「嫌がってるフリをしている」「駆け引きを楽しんでいる」と錯覚したり、「ちょっと驚いているだけだからもう少し押せばセックスできるのだろう」と考えてしまう。

 ちなみに、「Aさん」「Bさん」というケースで話していますが、必ずしもAさんが男性、Bさんが女性というわけではありません。逆の場合もあるし、同性同士のこともあります。

 現在の刑法では強制性交罪(旧強姦罪)に暴行脅迫要件があるので、被害者がどれだけ暴行脅迫を受けたのか、抵抗したのかが問われます。これは被害者にとって酷なことだと思います。

――酷というと?

小川:たとえば、男子中学生が街なかで不良に囲まれ「わかってるよな?」と言われて、お財布を自ら出してお金を取られることがありますよね。その中学生が警察に相談したときに「自分で財布を出したんだよね。同意して譲渡したんじゃないの?」と言われたら、ものすごく理不尽ですよね。けれどレイプの場合には、それが少なくない。

――仮に、被害届を受理され、裁判になったとします。裁判では、フリーズなどは論点となるのでしょうか?

小川:イギリスに視察に行ったとき、「(襲われた被害者が)フリーズするのは自然なことです」というポスターが貼ってありました。日本でも被害者がフリーズ状態になることは知られてきていますが、それでも「暴行脅迫はあったのか」「抵抗したのか」が重要視されます。被害者は同意がなかったけれど、加害者は被害者の拒否に気づかない「無神経」な人だったから無罪という、有名な判決もあります。

――他国でも暴行脅迫が焦点になるのでしょうか?

小川:イギリスなどでは同意の有無が焦点になります。スウェーデンではさらに、「Yes means Yes」で、お互いの同意の明らかな明示がなければいけないとされています。日本の場合は、同意の有無は争点ではなく暴行脅迫があったかどうか。

 一般的にレイプは、殴ったり、脅したりしないとできないと思われがちですが、先程も説明したように、そうではない。特に教師と生徒、会社の上司と部下、年長者と年少者、コーチと指導を受ける人など上下のある関係性では、加害者が被害者に言うことを聞かせることが容易いです。だから、昨年の改正では、こういった関係性の中で起こる事件に関してはせめて暴行脅迫要件を外してはどうかという議論がありましたが、結果的に認められた関係性は「監護者(実親や養親など)」から子どもに対してのみでした。


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