2024年4月20日(土)

食の安全 常識・非常識

2018年11月6日

ポイント2:油や醤油は、これまでと同じく義務表示の対象外に

 遺伝子組換え農産物の多くは日本でも栽培を認められています。しかし、花以外は栽培されておらず、アメリカやブラジルなどで生産され輸入されています。現在の制度では、組換え品種の農産物やその加工食品は、パッケージに「遺伝子組換え」などと表示しなければなりません。組換え品種と非組換え品種を分けずに栽培輸入された「不分別」の場合にも、「遺伝子組換え不分別」などと表示することが義務付けられています。

 ただし、加工食品になると義務表示から外れるものがあります。大豆やなたねなどから作られる油、大豆を原料とする醤油、とうもろこしからできる液糖(清涼飲料等の甘味づけによく使われる)やコーンフレークなどです。いずれも加工度が高いため、遺伝子組換え技術により導入された遺伝子やその産物であるたんぱく質が含まれず、加工食品を分析しても区別できません。そのため、対象外とされています。

 この一部食品の除外がこれまで、市民団体等から大きな不評を招いていました。分析ではわからず「科学的検証」は不能でも、分別生産流通管理が行われていることの確認という「社会的検証」により、油や醤油等も義務表示対象にできるはず、というのです。EUではこれらも義務表示となっているため、日本でも同様にしてほしいという強い要望が出ていました。

 しかし、新制度案でも判断はノー。消費者庁によれば、EUとは大きな違いがあるとのこと。EU域内では、遺伝子組換え農産物・食品がどこで生産されどこに運ばれ用いられるかという「トレーサビリティ」の確保が義務付けられており、それに基づく社会的な検証が可能です。しかし、日本ではトレーサビリティが義務付けられていません。仮に、新しい法律を制定しトレーサビリティを義務化したとしても、法律が及ぶのは国内のみ。アメリカなど海外での流通まで日本の法律を適用するのは無理です。

 たとえば、アメリカで遺伝子組換え品種から油が生産され輸入された場合、日本に輸入されてから、油を分析する科学的検証を行っても、遺伝子組換えであるという証拠は絶対に出てきません。アメリカ国内で油になるまでの社会的検証も難しい。輸入油は楽に「遺伝子組換えでない」と表示でき、国内で農産物から油に加工された製品は厳しい社会的検証にさらされる、というのでは、不公平極まりないことになります。

 「大量の農産物、加工食品を輸入している日本では、科学的検証が不可欠。義務表示は、科学的検証と社会的検証の組み合わせで監視をする」というのが消費者庁の判断です。

<私見>

 遺伝子組換え反対派は、激怒しているようです。遺伝子組換え食品を避ける権利を奪うのか? EUは義務化しているのになぜ日本はできないのか? というわけです。意見書なども公表されています。

生協で売られている油揚げ。生協の中には、取り扱う油について自主的に「遺伝子組換え不分別」と表示しているところもある。この油揚げは、大豆については「遺伝子組換えでない」と示し、なたね油については「遺伝子組換え不分別」と明示している。

 でも、消費者庁の主張には一理あります。それに、遺伝子組換え食品を避け、非組換え品種から作られた油や醤油等を消費者が選べなくなる、というわけではありません。実際に自主的に表示している油や醤油等もあり、選べます。加えて、有機農産物は遺伝子組換え排除というのがルールなので、有機、オーガニックという表示のある油や醤油、コーンフレーク等を選ぶという方法もあります。

 EUでは油等の表示が義務化されている、というのも一面的な主張です。たしかに制度としては義務化されているのですが、EUでは遺伝子組換え農産物はほとんど食用になっていないのです。遺伝子組換え大豆などが大量に輸入されていますが、飼料になっています。また、スペインで栽培されているとうもろこしの3割以上が遺伝子組換え品種ですが、こちらも飼料として用いられています。私は今夏、スペインで農業食料環境省を訪問し、組換え栽培農家等も視察して尋ねましたが、「食品はない」という返事でした。実際に、店頭でも表示された食品を見つけることができませんでした。

 つまり、制度としてはあっても食品表示としては動いていない。状況が日本とまったく異なるので、「日本でも同様に」という話にはなり得ません。


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