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2018年11月7日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)などがある。

東京・新宿でドキュメンタリー中国映画『世界で一番ゴッホを描いた男』を観た。ニセモノ、パクリという印象が拭えない中国で、ゴッホの名画の複製画だけを描く油絵村が存在するという。なぜ、そのような村が存在するのか、どんな需要があるのか。“メイド・イン・チャイナ”の実態と、ある男の人生に驚かされる。

ゴッホに人生を賭けた中国人男性を描いたドキュメンタリー映画『世界で一番ゴッホを描いた男』

複製画だけを描き続ける「画工」

「今は評価されなくてもいい。自分の心のままに描いていこう」

 映画の終盤で、画工の男性、趙小勇がそっと心に誓う場面がある。オランダ・アムステルダムで本物のゴッホの名画を目にし、衝撃を受けたときだ。

 ゴッホといえば後期印象派を代表する世界的な画家だが、生前のゴッホは世間に認められず、不遇な人生を歩んだことで知られる。そのゴッホに自分の人生を重ね合わせたのか、彼はさみしそうに、そうつぶやいた。

 「画工」とは「画家」とは異なり、複製画のみを手掛ける絵描きのことを指すという。中国南部の大都市、広東省深圳市には、1万人もの画工が住む大芬(ダーフェン)村がある。1989年に香港の画商が20人の画工を連れてやってきたのがこの村の始まりで、次第に人数が増えていった。

 2004年に政府の助成を受けて施設が作られ、観光客や、絵画を学ぶ人もこの村を訪れるようになった。今では年間、数百万点もの油絵がここで生み出され、世界中に「中国産のゴッホの名画」が売られていくという一大複製画生産拠点になっているという。複製画と銘打っているため、いわゆる「パクリ製造拠点」とは異なるものだが、それでも、どことなく、後ろめたさが漂う。

 村には公募展で入選し、晴れて、画工ではなく、“画家”として認められた人々も300人ほどいて、2007年に建てられた大芬美術館には、オリジナル作品を制作する画家の作品も展示されている。しかし、複製画だけを描き続ける職業があり、そうした人々が1万人もいる、というだけでも、日本人にとっては驚きだ。

 複製画の需要はどこにあるのだろうか。主な販売先は、ゴッホ生誕の地であり、ゴッホ美術館があるオランダだ。ゴッホ美術館の近くにある土産物店には、たくさんのゴッホ作品の複製品が並んでいる。そこに需要があり、世界中からやってきた観光客に飛ぶように売れていくのだ。そのため、複製画は描いても、描いても、需要がある。しかも、卸値の8倍という高価格で販売されているというビジネスの実態がある。

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