2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年11月16日

 エルドアンは、サウジとの関係では何を得ようとしているのか、米国との関係で何を得ようとしているのか。確定的なことが言えるわけではないが、おおよそ次のようなことであろう。サウジとの関係では、シリアのクルド支援の停止、カタールの封鎖解除などが考えられる。トルコは、シリアのクルド人武装組織YPG(テロ組織と認定しているPKKと関連がある)を敵視している。サウジが主導して封鎖が始まったカタールとは良好な関係にある。また、MBSは部下に責任を押し付け、カショギ事件の早期の幕引きを望んでいると思われるが、エルドアンはそういう幕引きを邪魔することに利益を見出しているところがある。そうすることで、サウジの信用が失墜し相対的にトルコの立場が上がる可能性があるという考えであろう。米国との関係では、同じくシリアのクルド支援の停止、対トルコ制裁の解除、米国の中東政策におけるトルコの地位向上などが考えられる。

 事件を受け、欧州だけでなく米国でもサウジとの関係見直しの声が高まってきている。サウジは中東における米国の最大の同盟国であり、イランと対抗する上で重要な存在である。したがって、米国がサウジとの関係を決定的に悪化させるようなことは今のところ考え難いが、少なくともMBSが主導して推進しようとしている経済改革には大きな影響を与え得る。MBSは、サウジ経済の脱石油、多角化をめざし経済改革を促進しようとしている。そのためには西側の協力、特に技術とノウハウが必要である。しかし、今回のカショギ殺害事件で、このような協力が得られなくなる可能性がある。MBSのサウジの改革は頓挫する危険が出てきたと思われる。

  
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