西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年11月8日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

有利な状況を無駄にした民主党の拙速な行動

 今回の選挙では、民主党に有利な状況が存在したにもかかわらず、拙速な行動をしてしまったために、その資源を無駄にしたという印象も強い。

 民主党は、トランプ支持者を刺激するのを避けるため、2020年大統領選挙と大統領弾劾については争点化しない方針を確認していた。だが、2020年大統領選挙への出馬を目指しているとされるエリザベス・ウォーレンのスタンドプレーにより、その目論見は崩れた。彼女はネイティヴ・アメリカンの血をひくことを売りとしており、しばしばトランプによってポカホンタスと揶揄されていた(ポカホンタスは伝説的なネイティヴ・アメリカンである)。ウォーレンはDNA鑑定の結果を示して先住民の祖先を持つことを明らかにしたが、それを発表するためにアップされた動画は、明らかに2020年大統領選挙を意識したものだった。その動画がトランプ支持者を刺激したのは言うまでもない。そして、ウォーレンの行動に先住民のチェロキー族が異議を申し立てるというオチまでついたことは、民主党陣営の脇の甘さを示していたといえるだろう。

 カバノー承認問題でも、民主党の対応は拙速だった。カバノーによって性的暴行を受けそうになったと主張する人物が現れたのを民主党が積極的にとりあげたが、ここで問題視されたのはカバノーが17歳の時に行ったとされる事件であり、それを立証する明確な証拠は存在しなかった。また、その後登場した第二、第三の自称被害者は、実際は被害にあっていないことが判明した。性的暴行事件が極悪な犯罪であるのは誰しも認めるが、この件については、カバノーの承認を妨げるために、明確な証拠がないにもかかわらずカバノーを叩いているのではないかとの疑念を持つ人々が登場した。また、推定無罪の原則を強調し、犯罪者に更生の機会を与えるよう主張する傾向の強いリベラル派が、この事例に関しては有罪推定をしてカバノーを徹底的に批判したことはダブルスタンダードに映った。これらのことが、共和党支持者による民主党への反発を強めたのである。

二大政党の対立はより激化か

 今回の中間選挙の結果は、以後のアメリカ政治にどのような影響を与えるだろうか。今後のトランプ政権に及ぼす影響と、2020年大統領選挙に及ぼす影響について予測したい。

 まず、直近のアメリカ政治に及ぼす影響としては、今回の選挙戦を通してアメリカの政治、社会の分断が一層深刻化したため、二大政党の対立はより激化するだろう。現在の連邦政府は、大統領の所属政党、連邦議会上下両院の多数党の全てを共和党が占める統一政府の状態だが、以後、連邦議会上下両院の多数派がねじれ、大統領の所属政党と議会多数派の政党が異なる分割政府の状態となる。連邦議会下院の議長と各種委員会の委員長を全て民主党が握ることになる。議会上下両院ともに二大政党の勢力拮抗状態が続くため、二大政党は他党との違いを示そうとして対立姿勢を強める可能性が高い。二大政党が合意できる可能性のある争点はインフラ投資などごく一部に限られるため、よほど革新的な政策案が出てこない限りは、政治の膠着状態が続く可能性が高いだろう。

 連邦議会下院の多数派を民主党が握ったことにより、トランプ大統領の弾劾に向けた動きが出てくる可能性もあるかもしれない。もっとも、弾劾が成功する可能性は極めて低い。弾劾を成功させるには、検事役を務める下院が単純過半数の賛成に基づいて訴追した上で、上院の出席議員の3分の2の賛成を得る必要があるが、上院議員の3分の2の支持を確保するのは極めて困難だからである。とはいえ、弾劾裁判が議題に上がればトランプ大統領の資質問題がクローズアップされるため、2020年大統領選挙のスケジュールを念頭に置きながら、民主党が弾劾の動きを示す可能性はあるだろう。

 最後に、外交面に与える影響は、必ずしも大きくないと予想される。そもそも連邦議会選挙で外交が争点となること自体が多くないためである。だが、内政面で業績を上げることが難しい場合に大統領が対外政策で注目を集めるべく強硬な姿勢をとる可能性はあり、多くの人にとって驚きの事態が発生する可能性があるかもしれない。

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