オトナの教養 週末の一冊

2018年11月9日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――アメリカン・ドリームだと言う人もいそうですね。

鈴木:貧しくても成功できるじゃないか、アメリカン・ドリームだという声もありますが、本来ならば貧しくてもさまざまな選択肢や可能性があるべきなのが社会です。スポーツで成功すれば良いという考え方は、マイノリティや貧しい人たちの環境を根本的に変えようという努力を後退させています。

――一般的に貧困層が多いと言われる黒人が目立つのは、スポーツや音楽をはじめとするエンターテインメント分野ですね。

鈴木:アメリカの全人口に対する黒人の割合は約1割です。それがすべてのスポーツに平均しているならば、野球なら9人のスターティングメンバーのうち1人くらいしか黒人選手はいないはずです。しかし実際は、フットボールでは半分は黒人選手です。それだけ彼らはスポーツに活路を見出さなければならない状況に置かれているのです。

――日本では、大学スポーツの応援に駆けつけるのは、在校生や卒業生などの関係者がほとんどだと思うのですが、アメリカではビジネスになるほど観客を動員できるのはなぜでしょうか?

鈴木:まず、アメリカの大学は地方都市にある場合が多い。地方には娯楽が少ないですから、地元の大学の試合を街の人たちが観に行くのです。日本で地元の人が地元のプロ野球チームを応援するのと同じことです。言って見れば、大学スポーツは街の公共財なのです。

 ネブラスカ州の州都リンカーンにあるネブラスカ大学には、アメフトの世界では知らない人はいない強豪チームであるコーンハスカーズがあります。リンカーンの街自体は、人口が30万人弱ですが、このチームの試合を年に5回程度開催するために国立競技場より収容人数の大きなフットボールスタジアムがあり、コーンハスカーズはこのスタジアムを半世紀以上に渡り満員にする記録を更新しています。街のレストランやスポーツバーには「ゴー ハスカーズ」と書かれた横断幕が掲げられ、大学関係者でない人たちも集まり応援している。

 アメリカというのは人為的集団統合を宿命づけられた実験国家というのが、私の見方です。人為的集団統合を成し遂げるためのツールとして位置づけられているのがスポーツだと考えています。だからこそ、スポーツが地域の公共財になり得るのです。

――最近、色々な国の代表チームが野球には出てきましたが、グローバル化したスポーツであるサッカーに比べると、まだまだアメリカ型競技は世界へ広まっていないと感じます。その理由についてはどうお考えですか?

鈴木:バスケットボールは比較的広がっています。アメフトと野球はまず用具が必要なこと、そしてアメフトは人数も必要なので、ハード面がひとつのネックになっていると思います。

 ただ、アメリカ自身が、サッカーのように競技の真の国際化を望んでいるとは思えません。あくまでもアメリカ中心を維持したいように見えます。

――最後に本書をどんな人に勧めたいですか?

鈴木:コアな読者としては、アメリカやスポーツに関心がある人になるのかなと思います。ただ、本書はスポーツを外国研究の文脈のなかで、社会論、文化論として領域横断的に論じていますので、類書はほとんどありません。また、地域振興や企業の社会的責任、女性の社会進出、メディアの倫理などに関心のある人にも、スポーツとの関係を通じて普段とは別の角度からの視座を得ることはできるのではないでしょうか。

 日本では、19年のラグビー・ワールドカップ、20年の東京オリンピックと大きなスポーツイベントが控えています。現状では、会場建設が間に合うのか、運営がうまくいくのかに焦点が当たりがちですが、開催したら終わりなのでしょうか。そのレガシーをどう維持し、フィードバックしていくのかーー。本書を通じて、スポーツが社会と文化の結節点だということをみなさんが共有していただけたら著者冥利につきますね。
 

  
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