チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月9日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 2007年秋、ポスト胡錦濤の人事が明らかになった17回大会(中国共産党第17回全国大会)の直前レポートで、私は習近平、李克強、汪洋の3人がその候補であることを予測した。そして人事の予測と同時にポスト胡錦濤の時代の中国が「党内の争いなどではなく台頭する民意に対して共産党の正統性をどう守るのかが最大のテーマ」となるだろうと書いた。

 ポスト胡の候補に汪洋を含めたことは間違いだったが、結果的に全メディアが習近平をノーマークであった(わずか共同通信が1日前に正確に言い当てている)事情を考慮すれば十分及第点だろう。そしてもう一つの予測、共産党が直面する最大のテーマという点は、まさに今回の高速鉄道事故後に高まった民意に権力が素早く対応せざるを得なかった姿こそ、私の指摘した未来である。

「共産党の代弁者」が見せた変化

 だが、誤算がなかったわけではない。それはメディアがこの事故で果たした役割だ。

 高速鉄道の事故後、中国の各メディアが従来のスタンスとは異なり、常に被害者とその後ろにある民意の視点から問題を追及する姿勢を見せてきたことは、日本でも大々的に報じられた通りだ。極めつけは、広東省の『南方都市報』が鉄道省に対し「くそったれ(他媽的)」との表現を使った記事を掲載したことだ。

 これは香港の『萍果日報』が最初に使用したのに続いて『南方都市報』が使ったものだが、雑誌『財経』が直ちに支持を打ち出し、その後も上海『青年報』や『銭江晩報』が続くという広がりを見せたのである。すでに党中央宣伝部が報道規制に乗り出した後のことだけに挑発的な行為だ。

 これ自体驚くべきことだが、私が注目したいのはここではない。というのも『南方都市報』は過激な報道では定評のある有名な『南方週末』と同じ南方報業グループに属するメディアで、これに続いた『財経』もまた同じようなスタンスのメディアだからだ。その意味では、これまでも何度か一線を踏み越え、その度に責任者が処分され、また元通りということを繰り返してきたメディアだからだ。

見え隠れするメディアのしたたかさ

 だが今回注目すべきは、やはりCCTVや新華社といった共産党の代弁者と目されてきた“お堅いメディア”までもが変化を見せたことだ。CCTVに至っては女性アナウンサーが事故の遺族の話題に触れて泣き出すというハプニングも見せ騒ぎになった。

 新華社は、党中央宣伝部がメディアコントロールに乗り出すとき、「新華社の記事を使用するように」と支持を出すことでも明らかなように、党中央から見て最も模範的なメディアだ。

 その新華社も、実は7月24日付新華ネットでは非常に気になる記事を載せている。記事には、〈鉄道技術者は、なぜ中国の高速鉄道に乗りたがらないか〉と、ぎょっとするタイトルが付けられているのだ。

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