家電の航路

2011年8月9日

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前田 悟 (まえだ・さとる)

金沢工業大学客員教授

(株)SOW他複数企業特別顧問。1951年岡山県生まれ。ソニーで、世界初の無線TVエアボード、ロケーションフリーTVなどを開発。07年にケンウッドに移籍し、2008年JVC KENWOOD Holdings㈱執行役員常務に就任、2011年6月退任まで技術戦略、新規商品開発を担当する。2010年7月から、金沢工業大学客員教授、現在は複数企業の特別顧問も行っている。

 世の中にないモノを作る――。その思いで仕事をしてきた私は、30歳を過ぎて人から仕事をもらったことがない。仕事は全て自分で作り、勝ち取ってきた。今の日本のAV家電や業界の動きを見ていると「戦略が見えない。やれることはまだたくさんあるのに……」という思いが募ってくる。

 つい先日、「スマートグリッド」についての協議会に招かれたが、そこで愕然としたことがあった。スマートグリッドとはより効率的な送電網の整備、平たくいえば、新しいインフラが誕生しようとしているのである。新しい家電やビジネスが生まれるチャンスでもあり、まずはインフラの仕組みを知ろうと、協議会に参加してみた。

 すると、登壇者が発表する標準化ワーキンググループの中に「マルチメディア」という聞き慣れた名前が入っていた。組織しているのは案の定、日本の家電業界だった。既存のインターネット回線などに乗せることができる、「マルチメディア=音声、画像、データ」を、新しいインフラに乗せるために標準化するのだという。

 日本の家電メーカーは、置かれている厳しい状況、つまり、新興国に追い上げられて、価格競争で利益の出ない状況を打開する手段を持てず、相変わらず同じことをやろうとしている。「これでは先がない」と思わずにはいられなくなった。

 今までにない魅力ある商品やサービスを考えることを怠り、標準化だけをやってきて、今の現実があるということを理解しているのだろうか? 全くその逆を行って、大きなビジネスを手にしているのがアップルである。

 このところ目立つのは、「作りたいモノは何かを考える」のではなく、「仕組みだけ考えて、作りたいモノがない」ということだ。仕組み作りでいえば、設計本部を新たに組織したメーカーがある。設計方法を標準化して、効率化する目論見だが、そんな部署を作るくらいであれば、商品開発本部を作ったほうがマシだ。作り出したい商品があるのであればまだしも、本末転倒も甚だしい。

独自の進化こそむしろ目指すべき

 日本の製品が、ガラパゴスと揶揄されるようになったのは、商品を生み出し、進化させていくプロセスが、逆転してしまったからではないだろうか。独自の進化を遂げたとしても、魅力がある商品であれば、むしろガラパゴスであるべきで、それは他社には真似できない強力な武器となる。最近でいえば、アップルの製品がそれを証明している。スティーブ・ジョブズは、標準化など先に考えていない。そんなことよりも、人々が感動を覚える商品やサービスを、世の中に先駆けて送り出している。それをサードパーティが、アップルが敷いた仕様に従ってアプリケーションなどを提供しているのである。

 それは、魅力のある商品に共通することで、例えばプレイステーションは、ゲームソフトの作り方に合わせて開発されたわけではない。世の中にないモノというのは、ガラパゴスのように独自の進化をしなければ生まれない。そもそも、標準化とは同じモノを作るのであり、それでは、競争力は生まれないことを忘れてはならない。

◆WEDGE2011年1月号より


 

 


 

 

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