2024年4月26日(金)

“熱視線”ラグビーW杯2019の楽しみ方

2018年11月17日

「フェアであれ」スポーツ教育としてのラグビー

――小さなお子さんを持つ若いお父さんお母さんたちにラグビーの魅力をお伝えください。

村上:イングランドのラグビー校はスポーツ教育に力を入れていた学校で、学生たちの自主性を重んじ、その中からリーダーを決めてすべてを学生が主体的に治めていました。ラグビーという競技も同様に選手の自主性を重んじることが根幹にあります。

 だから、試合中、原則的にコーチは一切口を挟まずキャプテンに任せてきました。現在は監督やコーチがスタンドからトランシーバーでフィールド上のスタッフにアドバイスを送り、それを選手に伝えることもありますが、基本的に試合中の意思決定はキャプテンに委ねられています。

 ラグビーのキャプテンシーを表す好例として、2015年のラグビーワードカップにおける南アフリカ戦が挙げられます。南アフリカ陣内の反則で、当時日本代表のヘッドコーチを務めていたエディー・ジョーンズさんはスタンドから同点のペナルティゴールを狙えと指示していたようですが、キャプテンのリーチ・マイケル選手は同点ではなく、あくまでも勝ちにこだわりスクラムを選択しました。その後の快挙は記憶に新しいところですね。

 ここでもわかるようにラグビーではキャプテンの判断が重んじられます。

 それをいまだに守っているめずらしい競技です。

――人数が多く、ルールも複雑に見えるのですが。

村上:ルールが複雑に見えて、実はあまり制限のない競技だと思います。手を使ってもいいし、バスケのように歩数が決まっているわけでもないし、何歩でもどれだけ走ってもいい競技です。とにかくボールを相手ゴールに運ぶというシンプルな競技なので誰でも挑戦できると思ってください。

 これはヤマハ発動機ジュビロの清宮克幸監督が言っていたことですが、ラグビーからスクラムがなくなれば120kgの選手がいらなくなる。ラインアウトがなくなれば2mの選手がいらなくなる。

 この2つはラグビーを象徴するボールの奪い合いです。空中戦があるから背の高い人が必要で、スクラムの押し合いがあるから体の大きな人が必要になるのです。

 こうした背の高い人や体の大きな人がいれば、それらを繋ぐような役割も必要になります。

 ラグビーからこのスクラムとラインアウトを無くせば走るのが速い人を揃えればよくなってしまいますね。でも、ラグビーはいろいろな特性をもった人が、平等に活躍できる機会を与えるという考えに基づいているので、足が速い人だけが有利になるようなルールにはならないでしょう。

 機会を平等に与えるという考え方はとってもフェアですね。

 反則の場合でも、スクラムやラインアウトが選択できるし、ゴールを狙うこともできるし、ボールを持って走ることもできる。自分たちの強みを生かして選択できるというルールです。

【田村一博さん】 ラグビーマガジン編集長。早稲田大学教育学部卒。 1989年 ベースボール・マガジン社入社。入社と同時にラグビーマガジン編集部勤務。 1997年からラグビーマガジン編集長をつとめ、編集長歴は同社最長の21年目に突入。国内外のビッグゲームを制覇し、ワールドカップは1999年より5大会すべてを取材。2019年日本大会に向け、ますます編集者魂に熱を帯びる。

田村:体が大きく強い人が多ければスクラムを選択するし、背の高い人が多ければラインアウトを選択するし、走るのが得意なチームはパスを繋いで走ってボールを運ぶことを選択するし、キックが得意なチームはペナルティゴールを狙うというように、一番得意なプレーを選ばせるという考え方です。

 基本的にラグビーのルールはすべてフェアに作られていてよく考えられていると思うのですが、たとえばタッチラインから外に出たときのラインアウトからの再開では、こっちのボールなのに相手と1m離れて並んで真ん中に投げ込まなきゃいけないというルールなのです。ちょっと考えたらそんなに得じゃないですよね(笑)。サインを出せるだけ有利といえば有利なんですけど、それほどでもないですよね、ボールは真ん中に投げ入れる。実にフェアです。

村上:サッカーのスローインは味方に投げますよね。あれを敵味方の真ん中に投げ入れなさいというようなものです。

 ラグビーは、誰もが機会は平等に与えられるべきという考えに基づいています。その考えをしっかり理解したうえでプレーすれば、すごくいい子に育つと思います。

田村:これもラグビーらしいなぁというものの一つですが、激しくぶつかり合う試合中についカッとなって相手を殴ってしまうようなこともあるのですが、殴り返した方がより悪いと判断されます。


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