中東を読み解く

2018年11月16日

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(REUTERS/AFLO)

 サウジアラビアの検察当局は11月15日、反政府サウジ人記者ジャマル・カショギ氏の殺害事件の捜査結果を発表。11人を起訴し、5人に死刑を求刑する方針を明らかにする一方、疑惑の中心人物ムハンマド皇太子については、一切関わっていない、と全面否定した。トルコは期待外れと強く反発、「典型的なトカゲの尻尾切り」(ベイルート筋)との声が上がった。

殺害は現場の指揮官の命令

 発表によると、カショギ氏をめぐる今回の作戦は事件後に解任された情報機関の副長官アハメド・アシリ将軍の命令で実行された。作戦にはアシリ将軍とともに、皇太子の側近のサウド・カハタニ王室顧問も関わっていた。しかし、将軍の命令は同氏を自分の意思か、ないしは強制的にサウジ本国に連れ戻すこと、つまりは拉致して連れ帰れという内容だった。

 だが、作戦は命令に反し、現場の指揮官がカショギ氏の殺害を突然指示。同氏は殺害され、遺体をバラバラにされた。トルコ側によると、殺害現場になったサウジ総領事館のあるイスタンブールに派遣された暗殺部隊は15人。その中には、遺体処理の検視専門家が含まれていたが、今回の発表では、その役割はカショギ氏を連行する際の証拠を消すためだった、としている。

 アシリ将軍らはこの検視専門家の派遣について承認していなかったという。肝心のムハンマド皇太子の関与については「彼は何も知らなかった」と事件との一切の関わりを否定した。サウジ側はこれまで実行犯ら18人を逮捕、アシリ将軍、カハタニ王室顧問ら5人を解任しているが、起訴された11人以外の罪については不明。また起訴された11人の氏名も明らかにされていない。

 この発表に対し、トルコのチャブシオール外相は「満足のいくものではない」と期待外れを表明。エルドアン大統領が求めたように、容疑者らをトルコで裁くことをあらためて要求。同時に国際的な捜査の必要性を強調し、今回の発表で幕引きを図ろうとするサウジを批判した。

 同外相は現場の指揮官がその場でいきなり殺害を指示したというのであれば、なぜ遺体検視の専門家が派遣され、遺体解体のための電気のこぎりなどが持ち込まれたのかと疑問を呈し、エルドアン大統領が発表した通り「計画的な殺害」だったとの見方を示した。

ボールは米国に

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、皇太子のボディガードとしてたびたび外遊を共にしていたマヘル・ムタレブ大佐がカショギ氏の殺害直後、現場からサウジ本国にいた皇太子の側近に電話、「任務は完了したとボスに伝えてくれ」と話している。これはトルコ側が持っている殺害時の録音テープが情報源だ。

 米情報当局者はこの「ボス」がムハンマド皇太子であると見ている上、こうした大掛かりな国家ぐるみの作戦はサウジを牛耳っている皇太子の了承抜きでは考えにくいというのが大方の見方だ。米中央情報局(CIA)の元アナリストはこの電話を皇太子関与の「ほぼ動かぬ証拠」とコメントした。

 トランプ大統領は当初のムハンマド皇太子一辺倒の姿勢を転換し、「史上最悪のもみ消し」などと批判を強めている。議会でも与野党にかかわらず武器売却の中止などサウジへ制裁を科すべきとの声が強まっており、サウジの発表を受けて大統領がどのような対応を示すのかに注目が集まっている。

 ベイルート筋は「サウジ側の発表は誰が見ても“トカゲの尻尾切り”。現場の実行部隊に責任を押し付け、矛盾に満ち、合理性がない。だが、今やボールは投げられた。これにトランプが反発するのか、受け入れるのか、見ものだ」と指摘している。

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