2024年4月19日(金)

食の安全 常識・非常識

2011年8月22日

 問題となった薪の表皮には1kgあたり、放射性セシウムが1130Bq/kg含まれていたと新聞等が伝えています(セシウム137が588Bq/kg、セシウム134が542Bq/kg)。燃やす予定だった薪500本の重量は不明ですが、もし仮に1本1kgで、表皮が薪の重量の10分の1と仮定すると、薪500本に放射性セシウムが5万6500Bq含まれていることになります。ICRPの勧告にしたがって成人への影響を計算すると、この放射性セシウムを一人が全部吸入したとして、0.034mSv程度の被ばく線量。100mSvに比べて極めて小さい数字です。実際には、薪が燃やされると含まれる放射性物質は空気中を広く拡散して行きます。

 一方で、放射性物質は実は、日常的に降下しており、国が測定しています。これまでの核実験や原発事故等で排出された放射性物質が、今でも降下し放射線を出しています。

(出典:「日本の環境放射能と放射線」データより作成)
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 京都市内における放射性セシウム137の降下量をみると、検出限界を下回るときも多いのですが、2010年3月には1平方kmあたり5万1000Bqや7万Bqという数字を記録しています。春は、黄砂に付着して放射性物質が飛んで来るため、毎年検出されるのです。これが日常でありながら、表皮についた放射性セシウムを懸念し拒絶したのが京都市の判断です。

 ちなみに、1950年代から60年代にかけて核実験が多く行われ、京都市内でも1963年には月間に1平方kmあたり2億Bqの放射性セシウムが降下していたと記録されています。1970年ごろになっても日常的に月間100万Bq程度は降下していました。(これらのデータはすべて、日本の環境放射能と放射線http://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index というサイトで閲覧できます)

 放射線のリスクは、数字を判断するのが基本です。自然の放射線があり、これまでの核実験や原発事故があり、福島原発事故も起きてしまったのですから、ゼロを追い求めても意味はありません。

 なのに、京都市は「燃やさない」と決めてしまいました。ゼロであれば、ECRRもそれを信じる人たちも、「子どもを守れ」と主張する人たちも文句を言わないから、責任を問わないから、政治家や行政はゼロ志向に走ります。

 その結果、陸前高田市の人々は大きく傷つきました。それと同時に、市民が、日常的に受けている放射線との比較などを通してリスクについて考える機会も、失われてしまいました。

 この責任逃れの構造がどれほど、社会を歪めてしまうか? 私たちはそのことを改めて考え、リスクに向き合う必要があるのではないでしょうか。


参考文献
国際放射線防護委員会ウェブサイト
http://www.icrp.org/
食品安全委員会「放射性物質の食品健康影響評価の状況について」
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/radio_hyoka.html
国立保健医療科学院「放射線診療への不安にお答えします」
http://trustrad.sixcore.jp/
独立行政法人国立がん研究センター
http://www.ncc.go.jp/jp/
原子力安全委員会・環境放射線モニタリング指針
http://www.nsc.go.jp/anzen/sonota/houkoku/houkoku20080327.pdf
ヨーロッパ放射線リスク委員会
http://www.euradcom.org/
原子力安全委員会資料「福島県における小児甲状腺被ばく調査結果について」
http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan031/siryo4-3.pdf
田崎晴明・学習院大学教授「放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説」
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/index.html
放射線の内部被ばくリスクについての検討委員会
http://www.cerrie.org/

*記事の一部を修正しています。 [2011/08/26 11:00]
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