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2018年12月3日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

 日本語もできず来日する〝偽装留学生〟にもアルバイトは見つかる。ただし、コンビニやスーパーで売られる弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け、ホテルの掃除といった人手不足が深刻な夜勤の肉体労働ばかりだ。賃金も最低レベルで、「週28時間以内」で働いているかぎり借金の返済はできない。また、翌年分の学費も貯める必要がある。そこで彼らはアルバイトをかけ持ちして働く。「週28時間以内」という法定上限に違反してのことだ。

 アルバイト漬けの生活を送るうち、留学生たちは現実の厳しさを思い知る。せめて学費の支払いを逃れようと、日本語学校から失踪し、不法就労に走る者も少なくない。

 そんな〝偽装留学生〟の送り出しが最も多いのが「ベトナム」だ。12年には8811人にすぎなかったベトナム人留学生は、18年6月末までに約9倍の8万683人へと急増している。その大半が〝偽装留学生〟だと見て間違いない。

不法滞在の夫を追って日本へ

 いったいどんなベトナム人が〝留学〟してくるのか。ハノイから南に車で3時間ほど行った場所にある、タイビン省の小さな村を訪ねた。

 緑豊かな田園地帯に集落が点在し、田んぼには農耕用の牛の姿を見かけるのどかな田舎だ。村は東京都内のコンサルティング会社で働くフエさん(仮名・20代)の故郷である。

 フエさんはハノイの名門大学を卒業後、14年に日本語学校の留学生として来日した。ベトナムにいた頃から日本語の勉強に励み、来日1年足らずで日本語能力試験「N1」に合格した。ベトナム人留学生としては異例のケースだ。

 語学力を買われ、彼女は日本で就職できた。来日前に背負った借金は返し終え、故郷の村に残る両親に家もプレゼントした。家は日本円で300万円程度だが、近所では珍しい新築の「豪邸」だ。彼女は「ジャパニーズ・ドリーム」の体現者として、村では知られる存在となった。

数少ない成功者のひとりフエさんが建てた家

 そんなフエさんの成功が、多くの不幸を生んでいく。彼女に倣(なら)い、親戚や近所の若者が次々と〝留学生〟として日本へと渡っていったのだ。その数は彼女が知っているだけで10人近い。

 「皆、日本語の勉強も十分せず日本に行きます。私のようにうまくいった人は誰もいない。東京でアパートをシェアしている高校の同級生も日本語学校の学費の支払いに困って、私から借金しています。(同郷者で)学校から逃げ、不法就労している人も多い」

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