Washington Files

2018年12月3日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 11月23日、地球温暖化がアメリカに及ぼす深刻な影響と対策を論じた注目の米政府専門家委員会報告書が公表された。しかし、就任前から温暖化そのものを否定、パリ協定からの脱退まで言明したトランプ大統領は、報告書の内容を頭から否定、ホワイトハウスは激しいマスコミ批判を浴び対応に苦慮している。

 トランプ大統領の反環境主義は今に始まったことではない。実業家だった2012年11月7日、自らのツイッターで「地球温暖化という概念は、もともとアメリカ製造業の競争力をそぐために中国によって中国のために作り出されたものだ」と断じ、内外で話題を集めた。それ以来、ことあるごとに「温暖化は人間の活動とは無関係」と気候変動説を否定し続けてきた。こうしたツイートによる自説展開は昨年6月までの間に115回にも達しているという(電子メディアVox)。そして、きわめつきが、同年6月1日「パリ協定離脱」の大統領発表だった。

(Darwel/Gettyimages)

 しかし、今回のように、米政府の公式報告書(1656ページ)を大統領自らが否定するのは、異例中の異例であり、議会、学界、産業界、マスコミを巻き込んでハチの巣をつついたような騒ぎとなっている。

 まず、報告書が作成された経緯と内容、発表のタイミングを振り返ってみよう。

 正式には「全米気候アセスメント National Climate Assessment(NCA)」と呼ばれ、
1990年に連邦議会で成立した「地球変動調査法」に基づき政府関係省庁専門家による協議の上、4年ごとに大統領に調査報告書の提出が義務付けられてきた。このうちオバマ大統領(当時)は前回報告(2014年)を受け、大気汚染規制などさまざまな地球温暖化対策を意欲的に打ち出してきた。

 しかし、13省庁が参画した今回報告書がより注目を集めたのは、アメリカ国内の大気汚染実態の指摘だけにとどまらず、気候変動が将来的にアメリカ経済に及ぼすマイナス面の影響を具体的数字を挙げて論じた点だ。

 それによると、今世紀末までに

  1. ヒートウェーブ現象がもたらす病人、死者続出などで1410億ドル
  2. 海浜の水位上昇による被害1180億ドル
  3. 道路、水路、鉄道、橋梁などのインフラ被害320億ドル

 などの甚大な経済損失が見込まれるほか、「干天続きで水力発電が制約を受け飲料水確保が高価なものになりつつある南西部州、海氷消失による海浜氾濫や住民移転を強いられるアラスカから、海水流入による飲料水の水質変化に悩まされるプエルトリコ、バージン諸島にいたるまで、気候変動の影響を受けずにすむ地域はアメリカじゅうから消え失せる」と指摘、さらに、アメリカ以外の世界各国も同様被害により経済的ダメージを受け、ひいてはそれがアメリカの輸出入貿易を直撃、結果として国内の自動車、食料品工場などの閉鎖につながるといった、経済面の負の連鎖にまで言及したものとなっている。

 いずれにしても前回までの報告書とくらべ、2018年版は、全米国民向けにわかりやすいかたちで気候変動の深刻さと自国への影響を、経済的側面から詳細にわたり説明した衝撃的内容であることだけは確かだ。

 このため、気候変動を一貫して否定してきたトランプ・ホワイトハウスとしては、できるだけ国民の関心をそらすため、マスコミ発表のタイミングを慎重にうかがってきた。

 その結果が、「感謝祭」明けでクリスマス・ショッピングに多くの国民が浮足立つ「ブラック・フライデー」として知られる休日扱いの11月23日金曜日だった。

 この点について、報告書作成に携わって来た政府当局者によると、発表は当初は12月第1週を見込んでいたが、ホワイトハウス内部で検討の結果、予定を繰り上げ、ニュース報道があまり目立たない同日発表となったという。

 発表後、ホワイトハウスは「同報告書はオバマ政権の時に始まったものであり、おおむね地球温暖化の最悪シナリオに基づいた内容だ。4年後の次回報告書はよりバランスのとれたものとなるだろう」とのそっけない声明を出した。

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