この熱き人々

2018年12月25日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 スイーツのように箱に詰められた花々。360度どこから見ても美しいブーケ。母国デンマークと日本の感性が調和した独自のデザインで新たな花の魅力を発信、ファッションやアートとも響き合う、表現の可能性を追求し続けている。
南谷真鈴(みなみやまりん)。21歳。早稲田大学政治経済学部2年。ウエービーなロングヘアにコーラルピンクのウインドブレーカーのスポーティーな装いが、都心の公園の緑に華やかに映える。この若い女性が、日本人最年少の19歳でエベレスト登頂に成功し、その2カ月後に日本人最年少、女性では世界最年少で7大陸最高峰登頂も達成、さらに南極点、北極点到達を加えた探険家グランドスラムを世界最年少の20歳で達成したと聞いたら、道行く人はどんな反応を示すのだろうか……。偉業を知っていてさえ、記録達成までの過酷さと目の前の都会的な雰囲気の漂う女子大生の間の落差を乗り越えないと、南谷真鈴の像が結べないような気分になってくる。
 

 国道246号・青山通りの表参道交差点から南にワンブロック。高層ビルの並ぶ通りから一筋入ると、中低層の個性的な建物が多くなる。そんな中でも、ガラス張りで天井の高い、コンクリート打ちっぱなしの2階建て、入り口へのアプローチも鉢植えの植物や花や木々で彩られた植物園か温室のような建物はひときわ目をひく。

 それが2010年12月にオープンした「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン フラッグシップ ストア」。一面のガラスから燦燦(さんさん)と太陽の光が降り注ぐ店内に一歩足を踏み入れると、そこにはニコライ バーグマンの世界が広がっていた。フラワーショップに併設されたカフェの、ガラスの天板のテーブルには季節の花が飾られ、まるで花の上にカップや皿を載せている気分。壁も一面の苔と花で覆われて、カフェに花や植物が飾られているのではなく花や植物の中にカフェがある感じ。そこに洗練された雰囲気をまとった長身で美形のニコライが現れると、映画の世界にいるような錯覚を覚える。

 「この辺りの雰囲気とこの場所がとっても好きだったけど、フラワーショップにはちょっと広すぎた。そこで、花をより多くの人に楽しんでもらうために何か提案しようと、2階はフラワースクールとイベント会場に、一階はフラワーショップとカフェにしました」

 私たちが普通に見慣れた生花店は、あくまで花を選んで買う場所。花はそれぞれが持ち帰った空間を彩るものであって、店内でゆっくり眺めながら時を過ごすという発想はなかったから、日本初の試みだったのだろう。

 花の気配を感じながらブランチを楽しむ人たちの目が、オレンジ、ピンク、パープル、レッドなどの花で彩られたフラワーボックスに留まる。ニコライ バーグマンといえばフラワーボックス。フラワーボックスといえば、ニコライ バーグマン。フラワーアーティストとして最初の鮮烈な印象を日本で刻んだのは、このフラワーボックスなのである。

計算された色の取り合わせが美しいフラワーボックス

 初めてフラワーボックスをもらった時、黒い箱の中身はおそらく洒落た焼き菓子かチョコレートだろうと想像をして蓋(ふた)を開けたら、ピンクの花がびっしりと詰まっていて、え?  何これ? 花? 生の花? とびっくり仰天。プレゼントといえば花束かアレンジメントの籠(かご)だった常識がはじけ飛んだ一瞬だった。

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