この熱き人々

2018年12月25日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 「もちろん、いろいろ見に行きました。生け花はすばらしい。でも、外国人の僕には長い歴史のある華道を深いところで理解するのは難しいと思いました。日本人だから辿り着ける世界観のような気もします」

 でも、店の中にはドーンと大きな枝物が存在感を示しているし、作品にも枝物、実物が縦横に生かされている。

 「日本で学んだことの一つです。ヨーロッパでは枝物をアレンジメントのメインに使う習慣はない。でも枝物は空間に動きと流れを作り出す。枝の流れを生かして花を美しく見せることができます。僕が大事にしている色調、色合わせも、日本と北欧では違いますが、日本の美意識が影響して、今の僕のバランスや感性や色彩感覚があると思っています」

 あれっ? と驚いて目が惹きつけられるのは、感じたことのない異文化の美しさであり、それに素直に感応し愛せるのは、馴染んだ日本の美しさがその中に息づいているからなのかもしれない。

 日本との融合によって驚きを創出するということでは、何といっても今年の春で3回目を迎えたで太宰府天満宮(だざいふてんまんぐう)の展覧会だろう。14年に「伝統開花」、16年は「新花(しんか)」、そして今年は「HANAMI2050」。

 太宰府天満宮といえば全国の天満宮の総本宮の一つで、創建は延喜(えんぎ)5年(905)。祭神は菅原道真で、多くの重要文化財を有する歴史的な場所であり、学問の神様として受験生が押し寄せることでも知られている。

 「僕にとって太宰府天満宮は、エネルギーやオーラをすごく感じる場所です。歴史のある神聖な場所を外国人に自由に使わせてくれるなんてあり得ない。関係者の方々は、ポジティブなすばらしい考えをもっていて、そこで自分の花を生けられるのは幸せなことです。3回目の今年は、2050年の花見をテーマに制作しました」

 前回の太宰府天満宮、宝満宮竈門神社(ほうまんぐうかまどじんじゃ)、志賀海神社(しかうみじんじゃ)の3会場に、今年は柳川藩主立花邸御花(おはな)が加わり4会場に増えた。作品の数も100点を超え、その規模もケタが違う。関わる人も数百人にのぼる。それぞれの場所に立ち、インスピレーションを受け、そのイメージをスケッチブックに描き、花の種類、器、造形、スケジュールなどを綿密に詰めていく。

 花見といえば誰もが思い浮かべるピンク。4日間の展覧会の圧巻は、ピンクの布で巻かれた鳥居。誰もが初めて見るピンクの鳥居だ。延寿王院(えんじゅおういん)の門への6段の階段は、編んだ黒竹(くろちく)とグロリオサ。心字池(しんじいけ)は青竹の筏(いかだ)に無数のカーネーション、絵馬堂は来場者がおみくじのように結んだピンクのスイートピーが風に揺れ、桜の木にぶら下がっているのは緑の苔のボール……思わずオオーッと声が上がるほどの大胆さと、息をのむような細部の緻密さ。心を揺さぶられながら32年後の花見を思い、同時に、次回はどんな世界を見せてくれるのか早くも待ち遠しくなる。

2018年春の太宰府天満宮でのインスタレーション

関連記事

新着記事

»もっと見る