2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2011年8月30日

 しかし、世界各国が主要な再生可能エネルギーと位置づけているのは、風力発電であって、太陽光発電ではない。なぜ、日本ばかりが太陽光に傾注するのだろうか。歴史を見ると、1974年に始まった「サンシャイン計画」に行き着く。この計画は、前年の石油危機を契機に、通商産業省(現・経済産業省)が自然エネルギーの開発と実用化に向けた計画を打ち出したもの。当初は太陽熱発電に力が注がれていたが、採算性が見合わない。そうしているうちに1980年前後、薄膜シリコンを使う太陽電池などの技術開発が進み、太陽光発電の気運が高まっていったのだ。

 さらに、この頃太陽光発電の技術開発が進んだ背景には、半導体技術の向上がある。太陽電池は半導体を応用した装置だ。サンシャイン計画の実施時期と重なる80年代、日本は半導体産業で隆盛を極めていた。日本のお家芸と極めて近い位置に太陽電池はありつづけたのだ。

 だが、お家芸もいつかは敗れる。日本の半導体産業は2000年代に入り、韓国や台湾などの戦略的成長を前に完全に凋落してしまった。半導体技術そのものが沈みゆく中で、日本は太陽電池の技術だけは攻め落とされまいと必死だ。

 では、いま、太陽電池技術のなにが世界で争われているのか。太陽電池には、「三つの技術的要素」がある。量産化の技術、薄膜化の技術、そして変換効率向上の技術だ。量産化すればその分、製造コストを下げることができる。薄膜化を進めればシリコンなど主要材料の使用量が減るので材料費を抑えられる。そして、太陽光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率を高めれば、全体のコストを下げることができる。

 中でも、三番目の「変換効率の向上」をめぐる競争はとくに注目に値する。なぜなら、いま使われている太陽電池において、変換効率の“限界”が近づいているからだ。一口に太陽光と言っても、実際にはさまざまなエネルギーをもつ光が含まれている。すべての光が電気に変換できればよいが、エネルギーの低い光は太陽電池に吸収されず、エネルギーの高い光は熱という無駄な熱となってしまう。米国の物理学者ウィリアム・ショックレーらは、太陽光を電気エネルギーに変換できる理論的限界を「約31%」と算出している。世界的に普及しているシリコン型太陽電池では、変換効率が研究ベースですでに23%台まで達し、限界が見えはじめている。

 そこでいま、世界の研究者は、このショックレーの限界を超える技術革新を打ち立てようと争っている。その切り札と目されているのが「量子ドット型太陽電池」だ。

東京大学先端科学技術研究センター・岡田至崇教授。

 「究極的には変換効率を約70%にまでする技術」。量子ドット太陽電池の実力をこう説明するのは、東京大学先端科学技術研究センター教授の岡田至崇氏だ。これまで太陽電池の変換効率を画期的に高めるための研究を続けてきた。

 量子ドットを岡田氏は「原子核のない人工原子」と説明する。自然に無数ある原子では、原子核が電子の動きを強く束縛している。一方、原子核をなくした量子ドットでは、電子が自由に動ける距離が広がる。そのため、量子ドットを使えば電子を簡単に取り出して発電に利用することができる。さらに量子ドットを積層させた構造にすることで、光の取りこぼしが少なくなる。岡田氏は「5層にすれば、変換効率は約50%まで向上する」と考える。量子ドット太陽電池が実現すれば、太陽から届くエネルギーの半分以上を電気エネルギーとして使うことができるわけだ。


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