2024年4月25日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月29日

 もちろん経済発展は、中国がかつて社会主義国家を名乗りながら全く打開できなかった積年の課題である「温飽」問題(少なくとも衣食足りた状態を実現すること)をほぼ解決したことは確かである。しかし腐敗や貧富の格差の拡大を解決・緩和するための制度的枠組みはきわめて脆弱で、もっぱら共産党員の「道徳」に頼るしかないという、笑うに笑えない状況である。近年胡錦濤政権が「和諧社会」の重要な精神的支柱として、孔子・儒教といった「封建道徳」を持ち上げていること自体、共産党自身の劣化をあからさまに示している。

 したがって、厳守される保証などどこにもない「共産党員の道徳」を見せつけられ続けている圧倒的多数の中国の人々は、理想と現実の著しい乖離に内心激しい怒りを感じていることは想像に難くない。それがリビアの人々のそれと異なると誰が断言できるだろうか?

ネット動画が示す共産党支配に不満だらけの中国人

 では、中国の一般の人々にとって、今や中国共産党はどのような存在として見えているのか? 興味深い一例として、とあるネット動画をご紹介したい。

http://www.youtube.com/watch?v=OxCfAzF4Fj0

 これは、風刺アニメを手がける中国のプロダクションが、今年の春節を前にネット上で公開した「新年の礼物」とされ、「善政」を騙る虎の苛政によって塗炭の苦しみに陥った兎が最後は決死の抵抗を試みる……という物語である(残酷な表現が随所にあるので、動画閲覧の際には注意されたい)。

 ……遠い未来のあるところに美しい森があり、住民の兎は「兎たちのために服務する」老虎党のもとで幸せに暮らしているはずであった。しかし「三虎粉ミルク」を飲んだ兎の子が、次々に顔色を失い血を吹いて死んでしまった(中国における「食の安全問題」について、日本では毒餃子事件が有名だが、中国ではメラミン入り「三鹿粉ミルク」事件が最もよく知られている)。

 そこで主人公の兎は、「構建和諧森林(調和ある森林を構築しよう)」なる横断幕が掲げられた老虎党支部(老虎大洞)に抗議に行くものの、入口で門衛の虎に押し返される。しかも、会議が開かれていた洞窟では出火、虎の指導者の避難が最優先され、出席者の兎たちは逃げ惑う余地もなく焼かれて行く(共産党員の利益が優先され、一般人民の生命財産はなかば無価値であることの隠喩)。

 そして兎たちの村には、老虎党の党章を掲げたブルドーザーが。○の中に「拆」と殴り書きされた家屋が解体され、「拆」の字が三つ並んだスロットマシンからは金貨があふれる(土地は全て国有であるのを良いことに、命令一本で如何ようにも土地利用目的を変え得ることに目をつけた地方党官僚と不動産ブローカーが土地転がしに明け暮れ、突然の立ち退き命令とともに庶民の家屋を奪って行くという、中国では極めて当たり前のように展開される悲劇そのもの)。地面に擲たれたテレビは、兎を慰問する老虎党中央指導者を映し出すものの、やがてブルドーザーによって容赦なく押し潰されて行く(土地問題が引き起こす社会的矛盾を解決できない共産党指導部の見せかけの慰問など、所詮「徳治」のプロパガンダに過ぎないということ)。

 立ち退きを拒否した兎は、ついに自ら火を放って死の抗議をした。義憤にかられた老兎(主人公兎の父)は抗議の声を上げ、即座に老虎党の手先=公安虎に殴打されて連行される。主人公兎と連れ合いの兎は必死に後を追うものの、連れ合いの兎は老虎党員の息子が運転する車に潰されてしまった。しかしその虎は「俺の父親は虎剛だぞ!」と凄み、怒りで睨みつける兎たちを轢き殺して行く(昨年河北省保定市で起こった「李剛事件」……共産党幹部の息子が運転する車が女性を跳ね、「俺の父親は(公安局の)李剛だぞ!」と凄んでその場を立ち去った事件を指す。共産党幹部の子弟=太子党の横暴を象徴する事件として中国全土で猛反発を呼んだ)。その虎剛および息子が乗る車に向かって、公安虎は老兎を投げ……。


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