2024年4月18日(木)

Wedge REPORT

2018年12月11日

――今回の改正の大きなポイントは?

勝川:大きなポイントは3つある。

 最大のポイントは、「持続可能性」という文言がようやく初めて入ったこと。現行の日本の漁業法は1949 年に制定され、戦後の食糧難を打破するため、食糧増産を奨励した。さらにGHQにより網元が解体され、地域の漁業組合に漁業権を付与する「漁業の民主化」が実現した。漁師たちは、こぞって船を大きくし、海外漁場へと進出していった。みんなで協力しあって、できるだけ多くの魚を獲ってきた。海洋資源の持続可能性はほとんど顧みられなかった……。でも当時の社会的な背景を考えると、いたしかないことでしょう。

 今回の法改正では、漁獲規制強化の目的として「水産資源の持続的な利用を確保する」と記述され、海洋資源管理の上で大きな方向転換と評価できる。

 2つ目のポイントは「MSY(最大持続生産量)の導入」。海洋資源の枯渇を防ぐだけでなく、持続的に最大の漁獲量を得ることを目指すこと。魚は漁獲で減らしても、元に戻ろうとして増える力がある。しかし余りに減らしすぎると、増える能力を失ってしまう。これまで、日本は魚がどれだけ減っても、減った状態を基準に、管理目標を下方修正して、漁獲を継続してきました。つまり、これまではゴールポストをずらすことで必要な規制を怠ってきたのです。MSYという動かしづらい管理目標を設定することで、水産資源の減少に歯止めがかかることを期待したい。

 もっとも、日本でも1996年にようやく主要7魚種(現在8魚種)を対象に漁獲枠を設定するTAC法が成立した(ちなみにアメリカは約500魚種、ニュージーランドは約100魚種)。しかし、蓋を開けてみると、実効性がない“なんちゃって漁獲規制”だった。ほとんど全ての魚種で、漁師がいくら頑張って獲っても、到底超えられない過剰な漁獲枠が設定されている。資源の減少が懸念されているサンマやスルメイカの漁獲枠は、最近の漁獲実績の2倍以上。資源の回復を目指すなら、漁獲枠は現状の漁獲量より狭めなければ意味がない。

 3つ目のポイントは、「都道府県の管理責務」が規定されたこと。漁業者が非持続的な漁業活動を行っていないか、適切に資源管理を遂行しているかどうかを都道府県は監督する責務があり、怠った場合に責任を問われることになる。

 行政の責務が法律に明記されたことで、行政の対応が変わり、相当のプレッシャーを感じる都道府県が多いと思うが、漁業管理が一歩前進することになるでしょう。

――一方で、法改正の課題は?

勝川:日本の漁業を今後どうしていきたいのかグランドデザインが不明瞭である。その上、運用に関する具体的な記述が少ないので、運用次第では漁業の衰退を加速させる可能性もある。

 1つ目は、「TACにおける科学の独立性が不透明」。TACは国際的にも科学的根拠に基づいて設定されているものだが、法改正ではTACの決め方が不透明。これまで通り水産庁管轄の研究所が、行政や業界の圧力を受けながら、過剰な漁獲枠を設定し続けるのであれば資源回復は期待できない。科学者が独立して自由に議論できる場を設けることが重要。 

2つ目は、「IQ(個別漁獲割当量)の設定方法の不透明性」。

 法改正では、大臣から都道府県ごとに配分された漁獲枠を、知事が船ごとに“適切かつ有効”に漁獲枠配分を行うこととなっている。“適切かつ有効”の評価基準は何も明記されていない。本来守るべきである小規模漁業に十分な配分がなされなければ、淘汰される恐れがある。

 漁業法改正に先駆けて、漁獲割り当てを導入した太平洋クロマグロでは、水産庁の一存で、大規模漁業のシェアが多かった年の漁獲実績を基準にして漁獲枠の配分をおこなった。小規模漁業者の不満が高まり、漁獲枠配分の見直しを求めるデモや、訴訟へと発展している。

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