世界の記述

2018年12月17日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア大学外国語学部を卒業。その後、スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールで、ジャーナリズム修士。スペインの全国紙「エルペリオディコ」で記者経験後、南仏ペルピニョンとバルセロナを拠点にするフリー・ジャーナリストとして、欧州に止まらず、世界各地を取材し、月刊誌『世界』(岩波書店)、『文藝春秋』(文藝春秋)等で、報道記事やルポルタージュを発表している。共同通信・特約記者を兼務し、フランス語、スペイン語、英語、ポルトガル語、カタラン語を話す。著書に、『卵子探しています』(小学館)などがある。

 11月、英国の欧州連合(EU)離脱協定の署名を前に、スペインが領有権を主張する「ジブラルタル問題」に触れ、拒否権を行使する動きが発生した。しかし、スペインのサンチェス首相は最終的に妥協し、離脱協定は合意に至った。

(lucielang/iStock)

 ジブラルタルとは、一体どのようなところで、両国の争いとは何なのか。

 英国とスペインの領有権対立が止まないジブラルタルは、スペイン南部アンダルシア地方・カディス県に隣接した英国の海外領土。1713年以来、英国の支配が続く「欧州最後の植民地」で、人口は約3.4万人、総面積が6.8平方kmの小半島だ。

 公用語は英語だが、住民のほとんどがスペイン語も操る。キリスト、ユダヤ、イスラム教といった複数の宗教が混在するが、対立は起きない。失業率は0%。16年のEU離脱を問う国民投票では、ジブラルタルの住民の大多数が残留を表明している。

 ジブラルタル自体は平穏だが、領有権奪回を求めるスペインとの間では、問題が頻発する。2015年7月、ジブラルタルが魚礁を造るため、スペインの許可なくコンクリートの埋め立てを行ったとし、同国が反発して国境警備強化を図り、国境が大渋滞した。

 たばこの密輸取引も絶えない。スペインの調査会社によると、国内に出回るたばこの38・4%が密輸品といわれ、スペイン販売店の数が激減している。

 今回、離脱協定の署名で両国間に亀裂が走った最大の理由は、EUの基本条約(リスボン条約)第50条。つまり、EU離脱後、両国の合意なしに、英国とEUでジブラルタルの政策決定を行ってしまうことだ。

 スペインのサンチェス首相は、小半島にまつわるEUの決定には「スペインの事前合意が必要だ」と語り、外交の優位性を維持する考えだ。一方、英メイ首相は、今後のジブラルタルについて「英国に属することを誇りに思う。憲法的位置付けは何も変わらない」と強気な姿勢を示した。

 英マンチェスター大学のハビエル・ガルシア・オリバ憲法学者は、日刊紙ディアリオ・デ・カディスの取材に対し、次の仮説を立てた。

 「ブレグジット後、ジブラルタルは英国の一部であり続けるか、共同主権の状態でEUに属すだろう。問題は法よりも政治。英国から離れずにEUに残れば、スコットランドはなぜ同じ自由を享受できないのかという議論になる」 

 ジブラルタルにいる猿が、いつか姿を消す時、この小半島はスペインに返還されるという迷信がある。しかし、ここの住民や出稼ぎに来るスペイン人は、変化を求めていない。

 元ジブラルタル警察官のデレック・ピザロ氏(63)は「両国の政治利益の問題。国民同士はとても仲が良い」と言い、尽きない闘争に嫌悪感を表していた。
 

  
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