世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年12月20日

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 12月1日の米中首脳会談では、「関税戦争」の90日間の「停戦」が合意された。ホワイトハウスの発表によれば、(1)2019年1月1日に予定されていた2000億ドル相当の中国製品に対する関税の25%への引き上げを猶予し10%に据え置く、(2)技術移転の強要、知的財産の保護、非関税障壁、サイバー侵入及びサイバー窃取、サービスと農業に関する構造変革に関する交渉を開始、(3)90日以内に合意に達しなければ関税を10%から25%に引き上げる、という内容である。ただし、公式の合意文書のようなものはなく、米中それぞれが発表しただけである。

(ChrisGorgio/nazlisart/Pe3check/iStock)

 合意を受け一時的に米中の緊張緩和への期待が高まった。しかし、すぐに米側の強硬姿勢が明らかになった。まず、「90日」の起点について、当初クドロー米国家経済会議委員長は2019年1月1日と言っていたが、ホワイトハウスはこれを12月1日と訂正した。12月1日を起点とすれば期限は2月末までとなり、ちょうど3月上旬に開催される中国の全人代の直前に当たる。これは中国指導部へのシグナルであるとの見方が多い。確かにそういう意図はあるかもしれない。中国側の反応は、外交部報道官の定例記者会見での発言や、共産党の機関紙人民日報系の環球時報の社説(12月2-4日の3回にわたって米中通商問題を取り上げている)を見ると、抑制されたものとなっており、米中間での摩擦が緩和に向かっていることを印象付けようとしているように見える。中国指導部にとり、米国の強硬姿勢はマイナス材料ということだろう。

 さらに重要な動きは、中国の構造改革に関する米中協議の米側責任者が、穏健派のムニューシン財務長官から、強硬派のライトハイザー通商代表に交代することである。ムニューシン派は、中国による米国の技術窃取、知的財産権の侵害を、説得により止めさせることが可能であると考えているようである。5月の協議で、中国が輸入を拡大することで合意し、米中間での制裁関税を棚上げするとの宣言を出すことを主導したのはムニューシンである(ただし直後にトランプ大統領が制裁関税発動を表明した)。これに対し、ライトハイザー派は、中国の技術窃取、自国産業保護は、中国の経済戦略の根幹をなすと見ている。ワシントン・ポスト紙元北京支局長のJohn Pomfretは、12月3日付け同紙掲載の論説‘A China-U.S. truce on trade only scratches the surface of a broader conflict’の中で、今回の「停戦」について「トランプ政権内における対中関係をめぐって根本的に異なる派閥の間での停戦」と評し、両派の顔を立てた内容であると指摘しており、興味深い。

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