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2018年12月21日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

公共交通の見直し

 しかし、日本の路線バス事業は、沿線人口の減少、乗務員の不足と高齢化、そして燃料及び車両のコストアップの三重苦という深刻な状況に陥っています。NHKでも「路線バス」という特設サイトが設置され、そのトップページには「今、全国の路線バスが大変なことになっています。運転手不足で、赤字路線だけでなく、大都市部の黒字路線までも減便・廃止せざるをえない事態になっているのです」という記載があります。

 そして、バス運転手の平均年収448万円(全職業の平均490万円)、バス運転手の平均労働時間月210時間(同177時間)、バス運転手の離職率入社4年で半数近く、路線バス事業者の赤字率約64%、運転手不足の路線バス会社8割、10年間の路線廃止距離 約1万4000kmといったデータが示されています。

 定められた路線を定められたダイヤで、乗務員が運転して走行するというコンセプトが、変化した社会に合わなくなってしまいました。このまま路線バスが減り続ければ、自動車移動への依存度がさらに増すだけでなく、多くの交通弱者を生み出すことになってしまいます。

 自動運転のバスの実証実験が各地で行われています。将来的には、乗務員の不足や高齢化の問題を解決することが期待されますが、完全に乗務員が不要になるまでには、まだまだ時間がかかります。車両や運用のコストが高いことも大きな課題です。また、頻繁に停留所に止まり、幼児連れや高齢者などの乗客への安全を配慮した対応をしなければならないなど、路線バスに特有の難しさがあります。

 むしろ、路線バスというコンセプトのまま自動運転によって無人化を目指すのではなく、それに代わる新しい交通システムを考えるべきではないでしょうか。例えば、名古屋市は、燃料電池などを使って環境に配慮した「SRT」と呼ばれるバス型の新たな路面公共交通システムの導入を検討しています。専用レーンを設けることによって、自動運転の導入も比較的容易になるでしょう。

MaaSの前に考えるべきこと

 モビリティサービスが豊富な大都市では、既存のモビリティサービスを統合しただけのMaaSでも、多くの利用者を獲得することができるかもしれません。MaaSというプラットフォームの覇権を握った企業は、収集したビッグデータの活用、広告、ショッピングや飲食への誘導などのビジネスで大きな利益を得ることができるでしょう。

 しかし、利益目的だけのMaaSは、交通問題や環境問題を解決できないばかりでなく、交通システムの地域格差を拡大させてしまいます。MaaSは、日本全体の経済活性化と社会問題の解決の、両方を可能にするものであって欲しいと思います。MaaSの前に、まず新しい公共交通システムと、それを補完するマイクロモビリティサービスの開発に国を挙げて取り組むべきではないでしょうか。

  
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