立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2018年12月20日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

ファーウェイの孟晩舟副会長はカナダで逮捕され、米国への引き渡しの審査手続にあたって現在保釈中である。政治面と司法面から、この事件は概ね3つのシナリオを描けるのではないかと思われる。

保釈中のファーウェイ副会長・孟晩舟氏(写真:Press Association/アフロ)

第1のシナリオ、保釈中に逃亡した場合

 可能性としては非常に低いが、まったくないわけではない。孟氏の弁護人は保釈審理で、中国を代表する大手企業の「顔」である孟容疑者が逃亡すれば、「中国に恥をかかせることになる」として国外逃亡の動機がないと主張した。さらに氏の逮捕を受けて中国政府が激しい抗議に出たことで、氏の存在を、一般の民間企業家を超えた特別なものと認めたも同然だ。

 故に、氏が逃亡した場合、まさに「中国に恥をかかせること」が現実になる。それだけではない。ファーウェイや中国政府にかかる疑惑が一層深まり、米国に中国企業を排除する口実を自ら与える形になりかねない。

 カナダの司法もこの政治的なシナリオを描けるので、安心して保釈決定を下したのかもしれない。米国側、特にトランプ大統領がファーウェイ事件を貿易戦争の材料にしたい場合は、むしろ、このシナリオによって大変有利な立場に立つことになるため、保釈に反対する理由はないだろう。

第2のシナリオ、米国への引渡しを受け入れた場合

 実はこれが中国側にとってもっとも理想的な選択肢なのだ。引渡しを受け入れた場合、早ければ数週間もかからないうちに孟氏が米国に引き渡される。そして、米国の法廷で実体をめぐって正面から戦うことになる。手続上のゴタツキがもっとも少なく、時間のロスもなく、すっきりした形である。

 少し法律の説明を加えたい――。法律は大きく「実体法」と「手続法」という2つに分けられる。実体法とは、法律関係それ自体の内容を定める法のことをいい、手続法とは、実体法が定める法律関係を実現するための手続を定める法のことをいう。たとえば、刑法や民法が前者であり、刑事訴訟法や民事訴訟法が後者に属する。

 本格的に実体をめぐる法的戦いに入る前に、まず法律の手続がいろいろある。本来ならば手続をなるべく簡素化してまっすぐ実体法レベルの争いに入りたいところだが、実際には事件によって手続に予想以上に手間や時間がかかることがある。そのなかでは、片方の当事者は時間のロスによって相手方が不利な境地に陥ることを見越して、わざと手続を引き伸ばしたり、そうなるよう仕組んだりする場面がある。一種の意図的な作為である。

 たとえば、今回の孟氏の事案だと、米国での裁判にたどり着くまで引渡しも含めて複雑な手続によって長い期間を要することもあり得る。カナダ政府は孟氏の逮捕について、政治の介入を否定してきたにもかかわらず、なぜかトランプ氏が「介入もあり得る」とかく乱する発言をしたからだ。そうすると、中国側は米国での裁判が不公平に行われる可能性があるとし、米国への身柄の引渡し決定に反対せざるを得なくなる。

 この結果を導き出すために、トランプ大統領が意図的に「介入発言」をしたのではないか、そうした仮説も立てられる。すると、もっとも可能性が高いのは第3のシナリオになる――。

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