Washington Files

2018年12月24日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 トランプ氏は昨年1月20日の大統領就任式演説で以下のように訴えた:

 「われわれはこれまで何十年にもわたり、わが国産業の犠牲の下に外国企業を潤わせ、自国の国境防衛の代わりに諸外国の軍隊を支援してきた……そしてこれらの国々を豊かにする一方、我が国に対する信頼ははるかかなたに消え失せてしまった。しかし、これは過去の話であり、今日この瞬間から新たなビジョンがわが国を治めることになる。すなわち、アメリカ・ファーストだ。

 われわれは世界の国々との友好と善意を志向するが、それは世界のどの国も、自国の利益を最優先するという理解に沿ったものだ。われわれはアメリカ式ライフスタイルを外国に押し付けるつもりはないが、彼らが模範としてついて来るような国づくりをする。われわれには恐れるものは何もない。われわれは偉大なる軍人たちと警察官たちによって守られており、また、神の御加護を受けている。それだからこそ、われわれは団結し、再びこの国を強靭で豊かで誇りの持てる偉大な国にしようではないか」

 トランプ大統領はこの演説以来「アメリカ・ファースト」のスローガンを自らのキャッチ・コピーであるかのごとく繰り返し使用してきたが、はたしてそれが、リンドバーグの演説や「AFC」の綱領にヒントを得たものかどうかについては、これまでのところ定かでない。

 しかし両者の間には、共通する部分が少なくない。

自国の安全と安寧さえ確保できればよし

 共通点についてはまず、外交面での孤立主義が挙げられる。

 「AFC」が欧州での戦争介入に反対したのと同様に、トランプ政権もNATOへのコミットメントに消極姿勢を示してきたほか、つい最近では、12月19日、欧州同盟諸国、そして米議会の反対を無視するかたちでシリアからの2000人規模の駐留米軍撤退を発表、またその翌日には、アフガニスタンからも駐留米軍1万4000人のうち半数を本国に撤収させる計画が明らかにされた。

 世界情勢の展開に煩わされることなく、自国の安全と安寧さえ確保できればよしとする、ある意味で責任放棄の身勝手な考えだ。

 その一方で、トランプ大統領は「世界に類なき軍事力」の必要性を強調しているが、この点でもすでにリンドバーグが同様に「欧州戦争への非介入」を説くと同時に、「難攻不落の防衛体制の構築」を訴えており、両者の相似性が際立つ。

 ところが、「AFC」の場合、その後の予期せぬ事態の勃発により、突如、組織としての活動停止を余儀なくされることになった。すなわち、旧日本帝国海軍による「真珠湾攻撃」だった。

 それまで同委員会は「真珠湾攻撃」と同じ日の1941年12月7日(現地時間)、リンドバーグをメイン・スピーカーに仕立ててボストン・ガーデンで対外戦争非介入を訴える大集会を開催予定だったが、自国領だったハワイの「パールハーバー被爆」という驚天動地のニュースが飛び込むに至って急遽、計画中止に追い込まれた。そして対日宣戦布告からわずか4日後の同年12月11日には、委員会解散が決定された。

 その際、リンドバーグはこれまでの主張とは打って変わる以下のような談話を発表した。

 「わが国は過去数カ月、戦争への道を徐々に歩みつつあったが、今その時期が到来した。こうなった以上、これまでのわれわれの立場いかんにかかわらず、全アメリカが団結して立ち向かわなければならない。アメリカは武力攻撃を受けた。われわれは武力報復に当たり、ただちに世界最強の陸海空軍の建造に全力を挙げようではないか」

 そしてその後、米軍は一転して欧州、アジア・太平洋の両方面において、大規模かつ強力な戦力を持って第二次大戦に参戦、勝利を収めたことは歴史の証明する通りだ。

 第二次大戦後もアメリカは、朝鮮戦争、ベトナム戦争を戦い、さらに冷戦時代を通じて「西側同盟諸国防衛」を旗印に対外コミットメントを維持してきた。

 もし、そのアメリカがかつての「AFC」のスローガンに沿った孤立主義を取り続けていたとしたら、20世紀世界史はまったく違ったものになったはずだ。

 しかし、これはたんに過去のエピソードとして語られるものではない。今げんに、トランプ政権の下で、同じ「アメリカ・ファースト」が闊歩し、孤立主義的な外交・安全保障政策が推し進められつつある。

 中国のアジア・太平洋における軍事進出、ロシアの欧州における勢力拡大、北朝鮮の核の脅威、混迷を深める一方の中東情勢……世界に再び緊張要因が拡大し続ける今日、はたしてトランプ大統領は、こうした過去の歴史を学び、自らの主張がいかに誤謬に満ちたものであるかを理解しているのだろうか。はなはだ疑問だ。

  
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