2024年4月24日(水)

サムライ弁護士の一刀両断

2018年12月29日

異例の決定であった勾留延長の却下

 それにしてもゴーン氏の身柄拘束に対する裁判所の姿勢は二転三転しているように見えます。

 今までの裁判所の実務の傾向からすると、検察官が捜査上の必要性を理由に勾留の延長を請求した場合に、裁判所がそれを認めずに却下すること自体、珍しいといえます。

 法律の建前では、勾留の延長は「やむを得ない事由」がある場合にのみ許されるとされていますが、大半の事件では勾留の延長が簡単に認められているのが実態です。今回のように、一連の事件のうちの1件で起訴された後、別の関連した事件で逮捕・勾留されているような場合、最初の事件が起訴された段階で捜査がひと段落しており、当初と比較して捜査の必要が低下しているはずですが、それでも勾留延長を阻止するのは至難の業です。

 現実には裁判所が判断する「やむを得ない事由」のハードルは低く、原則と例外が事実上逆転しているのが実際のところです。

 また、企業トップによる経済犯罪の場合、通常は巧妙に隠蔽されているうえ、被疑者が組織内部に影響力があるため、どうしても証拠隠滅のおそれについて保守的に判断されがちです。

 それにもかかわらず、裁判所が現に捜査中であった第2の虚偽記載について勾留の延長を認めなかったのは、これまでの実務からすると、異例ともいうべき事態です。

国内外の世論に振り回されている感のある裁判所

 これに対しては、「裁判所は国際世論に配慮したのではないか」という穿った見方をせざるを得ません。

 長期間の拘束が常態化しているわが国の刑事司法は、これまでも被疑者自身を人質にすることで捜査を有利に進めるという意味で「人質司法」と揶揄されてきました。

 本件は海外メディアでもニュースとなっています。そしてそれに伴い、我が国の刑事司法のあり方が国際世論の目に触れるところになり、国際的な批判の声も聞こえてきています。

 ゴーン氏に対する第2の虚偽記載について勾留延長を認めなかったのは、裁判所がこのような国際世論の高まりに配慮した側面が多分にあるように感じます。

 他方、特別背任罪に対する勾留を認めたのは、やはり世間的にも影響の大きい経済事犯であり、他の事件との関係で「特例」を認めるわけにいかなかったといったところでしょうか。

 第(3)の勾留の根拠となった特別背任とは、簡単にいえば「取締役の立場を利用して、自分の利益を図るために会社の利益を損ねた」という犯罪です。

 報道等で見る限りでは、ゴーン氏は当初から「代表取締役としての立場を利用して、会社の資産から不当に利益を得ていた」という疑惑がもたれているようです。仮にそうだとすると、疑惑の本質に近いのはむしろ特別背任のほうでしょう。

 裁判所は、第2の虚偽記載で勾留延長を認めなかったことで国際世論に顔向けしつつ、本命の特別背任ではこれまでの実務に与える影響等に配慮して勾留を認めることで、双方に顔向けしたのではないか、などと邪推したくなります。

 本件に対する裁判所の姿勢は、いささか国内外の世論を忖度しすぎているのではないかという気がしてなりません。


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