野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年1月8日

»著者プロフィール
閉じる

野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

『迫り来る嵐』© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited

 中国人にとって、香港返還があった1997年は、日本人が想像する以上に、特別な意味を持っている。大きな時代のカーブ、ということなのだろう。1997年、そして香港を一つのキーワードにした映画は中国で多い。そうした映画のどれもが、改革開放による急成長から取り残された人々の喪失感をテーマにしている。

「中国人の喪失感」を描き出した物語

 1月5日から全国上映が始まった中国映画『迫り来る嵐』もまた、「失われた90年代と香港」を背景に用いながら、中国人の喪失感を描き出し、同時に、スリリングな社会派クライムサスペンス映画でもあるという特別な一作だ。

 中国は、経済成長で豊かさを手に入れた。しかし、成長に追いつけない人々には、満たされない欲望の空洞が生まれた。映画人たちは、その空洞を、あの手この手で描きだす。本作でも、欲望の空洞に侵された男の破滅が描かれる。時代の変化に乗り遅れる者とそうでない者の違いはどこにあるのか。結末は限りなく切ないもので、鑑賞後はやるせなさに包まれる。

 本作は、一人の男が「魔」に取り憑かれてしまう物語である。その「魔」とは功名心だ。だが、主人公のユイ・グオウェイは鉄工所で働く素人探偵だ。鉄工所では保安担当であり、不正を見つけ出して模範労働者として表彰もされ、警察からも一目置かれる存在だった。そんななか、猟奇的な女性の連続殺人事件が起きる。警察から捜査情報を聞き出し、聞き込みまで行って、怪しい人物の存在に近づきつつあった。だが、ユイはそこから暴走し、仲間や恋人を巻き込みながら、悲劇へと進んでいく。

関連記事

新着記事

»もっと見る