中東を読み解く

2019年1月10日

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安全保障地帯の設置が目標

 同筋によると、エルドアン大統領の戦略的な目標は米部隊の撤退により、YPGへの米支援をやめさせ、トルコ軍がシリア北東部に進駐してYPGを排除、トルコ国境から幅20キロ、長さ数百キロの安全保障地帯を設置することだ。

 エルドアン大統領は最近のニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米部隊に代ってISを壊滅させることができるのは北大西洋条約機構(NATO)の一員であるトルコしかいないことを強調。シリア北東部からYPGを排除した後、全土から集めた戦士による「シリア安定化部隊」を創設する考えを提唱した。

 しかし、こうしたエルドアン大統領の構想は「全くムシのいい思惑であり、非現実的だ」(同)。大統領にとってISの壊滅は二の次であり、トルコ軍をシリア領内深く侵攻させて、IS掃討作戦を展開するつもりはない、との見方がもっぱらだ。大統領は米部隊が撤退した後も、米国から空爆と補給支援を要求しており、トルコ単独でどこまでやる気があるのか、懐疑論が渦巻いている。

 さらに言えば、エルドアン大統領がシリア侵攻の先兵として考えているは、「自由シリア軍」など配下に置くシリアのアラブ人民兵軍団だ。先のシリア西部アフリン地域へのトルコ軍侵攻の際も、これら民兵軍団を先鋒として利用した。トルコ軍兵士の死傷者を最小限にとどめようとする狙いだ。

 大統領の新たなシリア侵攻の恫喝が本物か、ブラフなのかは不明だが、侵攻すれば、間違いなくクルド人勢力との衝突が起きるのは必至だろう。それだけ米軍の駐留が抑止力になっていたということだ。

 ボルトン補佐官の提案がエルドアン大統領に一蹴されたことで、米国は根本的にシリア撤退に伴う環境整備を再検討しなければならなくなった。つまりは「さらにシリア政策が混迷する恐れがある」(同)ことに他ならない。トランプ政権のシリア撤退をめぐる迷走はまだまだ続きそうだ。

  
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