世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年1月17日

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 トランプ米大統領は12月19日ツイッターで、「我々はシリアでISに勝利した。シリアの米兵は全員帰ってくる」と述べた。これはトランプ政権の要人がそろって強く主張していたことと真っ向に対立する決定であり、各方面から一斉に非難され、マティス国防長官辞任の直接のきっかけになったと見られる。議会でも超党派の批判が行われ、共和党有力者のグラム上院議員は同日、現時点での米軍撤退は、IS、アサド、イラン、ロシアの大勝利だと指摘、オバマがイラクからの撤退で犯したと同じ間違いだと酷評した。

(Pedro Fernandes/iStock)

 このような批判はシリアにおける米軍の役割を考えれば当然である。シリアの米軍の役割は第一にISの撲滅である。トランプはISに勝利したと言っているが、ISはシリアでの支配地域の9割を失ったとはいえ、依然1000名ほどの戦闘員を抱え、復活の可能性があり、脅威であるとの見方が多い。フランスのパルリ国防大臣は、「ISは未だ地図から抹殺されていない。最後の拠点に軍事的にとどめを刺さなければならない」と述べている。

 シリアにおけるISとの戦いで重要な役割を果たしたのは民兵組織「シリア民主軍」であったが、その中心はシリアのクルド人民兵組織「人民防衛隊」(YPG)であり、米軍はYPGを強力に支援した。トルコのエルドアンは、YPGはトルコ国内で非合法化されているクルド労働者党(PKK)と連携しているとして、YPGの軍事攻撃を計画しており、もし米軍が撤退し、YPGが米軍の支援を失えば、この計画が実行される恐れがある。

 WPのコラムニスト、イグネイシャスは12月23日付の記事‘What Trump’s Syria decision means on the front lines of the fight against the Islamic State’において、YPGの司令官のMazloum将軍との電話インタビューを紹介しているが、Mazloum将軍は、「トランプの決定でこれまで築かれてきた米国の信頼性が失われた」と述べたという。トランプの発表後、ISは勢いづき、攻勢を強めていて、YPGは大きな犠牲を払いながら、ISと戦っているという。Mazloum将軍はトランプの発表後、米国の作る真空を埋めるため、ロシアやシリア政府と接触しようとしているとのことである。イグネイシャスは、トランプの決定で、米国は貴重な同盟者を裏切ることとなる、と述べている。既に、YPGがアサド政権側に接近しているとの報道もある。

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