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2019年1月15日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 トランプ米大統領弾劾の可能性が昨年の中間選挙後、いっそう現実味をもってささやかれている。民主党が下院で多数を奪還したたことが、その背景にある。そういう事態が現実になるのだろうか。

 米大統領に対する最後の弾劾訴追は、不倫・偽証疑惑によるビル・クリントン氏(民主党、1993-2001年在任)のケースだ。あれからちょうど20年。月日の経つのは早い。当時1年以上にわたって全世界の耳目を集めた「セックス・アンド・ポリティックス」は何だったのか。

(freehandz/Gettyimages)

130年ぶりだった弾劾裁判

 若い世代の人たちにとっては、クリントン大統領といっても「誰?」という反応がほとんどだろう。3年前、2016年の大統領選挙で共和党のトランプ氏に敗れたヒラリー・クリントン女史(民主党)の夫君といえば、思い出す人がいるかもしれない。

 思い起こせば、弾劾裁判が始まったのが1999年1月、無罪評決は翌2月。弾劾訴追の原因となった不倫・偽証疑惑が暴露されたのはその前年の1998年1月だから、いずれも、今の時期にあたる。当時ワシントン特派員として弾劾裁判の過程を最初から最後まで取材した筆者は、毎年この季節になると、あの熱狂的な騒ぎを思い出す。

 大統領の弾劾訴追は1868年、第17代のアンドリュー・ジョンソン氏(無罪評決)以来、130年ぶりだった。米議会でも手続きを知る人がおらず、スタッフは古文書と首っ引き、手探りの準備を強いられた。

 裁判初日の2019年1月8日、〝開廷〟にあたって、上院議事整理係の職員が大声で演壇から、「Hear ye, hear ye, hear ye…」と古式に則った表現で静粛を呼びかけ、芝居がかった仕草に驚いたことを記憶している。ふだんは副大統領の座るべき議長席(上院議長は副大統領が兼任)に法衣をまとった最高裁長官が着席していたのも異様な光景だった。

「司法妨害」が訴因

 そもそもクリントン氏はなぜ、史上2人目という不名誉な弾劾訴追に追い込まれたのか。あろうことか、ホワイトハウス実習生の若い女性と(24)と密かに関係をもっていたと暴露されたことが発端だった。

 氏は今でこそ齢70を超え、〝好々爺〟の「印象だが、在任当時はまだ40代、ケネディ大統領ばりのハンサムな容貌と精悍な印象、就任以前から多くの女性と浮き名を流し、スキャンダルめいた噂が絶えなかった。

 しかし、訴追の理由は不倫ではない。「司法妨害」という深刻な罪だった。大統領という立場でありながら、自らの娘とそれほど年の違わない若い女性と関係を持つというのも呆れた話だが、それだけなら個人的な不倫関係であり、非難はされても弾劾裁判にまで発展することはなかったろう。

 だが大統領は疑惑を全面否定、それが判事の前での宣誓証言の場だったことから厄介な問題に発展した。大統領は当時、前職のアーカンソー州知事時代のセクハラ疑惑で州職員の女性から訴えられていたが、その宣誓証言の場でたまたま、この実習生との関係を聞かれ、うその供述をしてしまった。

 実習生は友人に電話で大統領との関係を告白しており、この友人が会話を密かに録音して、そのテープを特別検察官に提出した。特別検察官は、土地転がしなど州知事時代からのクリントン氏の一連の疑惑を捜査していたが、そういう時に大統領がウソの供述をしたことが明らかになったため、偽証罪の可能性ありとして本格的な調べを開始した。

 これらが一部メディアで暴露されたのが2018年1月下旬。その後、1年以上にわたって騒ぎが続いた。

 スキャンダル暴露の背景には、大統領の政敵や反クリントン勢力の陰謀めいた動きが少なからずあり、それ自体興味を惹かれるが、それはまたの機会に触れることにして、とりあえず割愛しておく。

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