Washington Files

2019年1月14日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

金正恩氏を「友人」と呼ぶ

 他方、トランプ大統領によるこのような欧州同盟諸国に対する一連の威圧的な態度とは対照的に、国際的に大きな関心を集めたのが、同年7月16日、ヘルシンキで行われたプーチン大統領との米露首脳会談だった。

 とくに会談終了後の共同記者会見で、終始、プーチン大統領の顔色を窺うような、卑屈な表情を見せながら、プーチン氏の直接指示で行動に移されたと米側捜査機関が断定した2016年米大統領選挙関与事件について「隣にいる彼自身が否定しているのだから、犯行がなぜロシアと言えるのか、理由がわからない」と述べ、自国政府の捜査結果に疑問を呈する一方、ロシア大統領の立場に理解を示したことから、アメリカのみならず、欧州各国首脳の間でも失笑を買うほどだった。

 トランプ大統領は、ロシアのみならず、同様に言論統制と弾圧が続く北朝鮮の最高指導者金正恩氏に対しても「友人」と呼び、その指導力を評価し続けてきた。

 このように、自由と民主主義の共通の価値観で結ばれてきたはずの欧州同盟諸国の指導者には冷水を浴びせる一方、専制主義体制のリーダーとの関係強化を重視するトランプ外交の特異性は、米外交史上も、特記すべきことと言えるかもしれない。 

 アメリカの有力月刊誌「ニューヨーカー」は最近号で『トランプはいかにしてアンゲラ・メルケルと欧州との戦いを始めたか』と題する特別記事を掲載、この中で、トランプ大統領が就任以来、地球温暖化対策の国際的取り組み「パリ協定」からの離脱、イラン核協定からの脱退、INF(中距離核戦力)全廃条約の廃棄表明、EUからの鉄鋼・アルミ輸入に対する関税引き上げなど、つぎつぎに打ち出してきた欧州敵視政策に言及した上で、「米政府元高官」の話として「すでに多くの欧州指導者たちは、トランプが本気でEUをつぶす覚悟でいると信じている」と論じている。

 果たしてこの指摘が正鵠を射たものかどうかは別としても、トランプ・ホワイトハウスが「アメリカ・ファースト」主義の看板を外さない限り、同盟関係を犠牲にしてまでもなりふり構わず自国の利益を貫き通す孤立主義的な政策が今後も続くことは間違いない。

 その場合、欧州を舞台としたのと同様の露骨な防衛分担増要求や通商戦争が、今後は日本を含むアジア諸国にも飛び火しない保証はない。いずれ関係当事国も、それなりの覚悟が迫られる時が来ることを予め織り込んでおく必要があるだろう。

 もし、過去数年の間に起こった米欧関係の激変ぶりから学ぶべき教訓があるとすれば、アメリカとの「同盟関係」にいつまでも安住できる時代は曲がり角に来ているということかもしれない。

  
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