2024年4月18日(木)

ネット炎上のかけらを拾いに

2019年1月15日

お茶の間に届けられたセクハラシーン

 とはいえ、AKSの会見と同等もしくはそれ以上にネット上で拡散されていたのは、ワイドナショーでの松本人志の指原莉乃に対する受け答えだ。先週、指原莉乃自身が同番組で見解を語ったことを明らかにしていたため番組の放送を心待ちにしていた人が多かったこともあり、松本の発言に批判が集まった。

 番組の中でのやり取りはこうだ。

指原「偉い人たちが仕切っても何もできない状況じゃないですか。わたしが(運営として)立っても何もできないとは思うんです。あれだけの(メンバーの)人数で、少ない運営なので」

松本「ま、でも、それはお得意のなんか、体を使ってなんとかするとか、そういう」

東野幸治(司会)「すみません、指原さん」

指原「何言ってるんですか、ヤバ…」

東野「ヤバいですね、本当に」

古市憲寿「指原さんがトップって説得力あるんじゃないですか。だってこんな感じでトップに行けたわけでしょ。AKBの中で」

指原「そんなわけない。なんで両端から責められるんですか」

 スタジオは険悪なムードではなく、指原も松本も他の出演者も笑いながら喋っている。しかし書き起こしてみると、その下劣さが際立つ。指原は真面目に話し、松本の反応に拒否感を示しているが、松本やその他の出演者の笑い声が、それを打ち消している。ネット上では特に松本の発言について、「面白いと思っているなら良識を疑う」といったコメントが散見された。

 女性の訴えが茶化されることはよくある。女性が必死になればなるほど、ありとあらゆる言葉を尽くしてこき下ろされ、茶化され、バカにされ、揚げ足を取られ、大した聞く価値のないものに「格下げ」されることはこれまでも行われてきた。松本のように人気があり権力のある男性がそう振る舞うと、周囲は強くたしなめられない。そして「笑う」という行為で、全てがモヤに包まれる。「揉めてなんかいなかったよ、俺たち」という状況証拠が作られていく。

 司会の東野は「すみません、指原さん」と「代理謝罪」をしたが、「松本さん、それはおかしい」とは言っていない。古市憲寿も松本ではなく指原をさらに「責め」、その横に座っていた乙武洋匡はただ笑っていた。

 日本のあらゆる組織のオフィスや飲み会で、同じことが日々繰り返されている。

 インターネットには種々の功罪があるが、このような場面がネット上で拡散され繰り返し視聴され検証されるのは有意義だ。被害者の置かれる理不尽さがひと目で共有されるからだ。セクハラやパワハラの現場には、加害と被害の当事者、加害者に協力する同調者、見ているだけの傍観者がいて、止めに入る人の言葉はほとんど効果的ではない。あからさまにその構図が再現された場面だった。

 セクハラの被害に遭いやすい若い女性に話させ、その周囲を男性が取り囲むという構図。スタジオでは男性が多数派で女性は少数派。その「絵」に私たちが慣れきってしまっていることも指摘しておきたい。
 

  
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