2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2011年9月26日

 

  プルトニウムは行き先がない。トリウムも同様で、レアアースを採掘する際に放射性のゴミとして生まれる。世界中ですでに15万トンほど溜まっている。今後も毎年1万トン以上、好むと好まざるとにかかわらず発生する。昨年の補正予算1000億円の計上直後、住友商事が米モリコープと、双日が豪州ライナスと提携したが、ともにトリウム含有率の大きなレアアース鉱山だ。むろん副産物トリウムの行き先は決まっていない。ライナスはレアアースの精錬工場をマレーシアに建設しようとしているが、マレーシアでは大規模な反対運動が起こっている。トリウムをプルトニウムとともに燃やす道を与えれば、地上のレアアース採掘時の環境汚染対策を合理的に施すことができるようになる。

 プルトニウムは、ウランとともに高速増殖炉で燃やす以外にも軽水炉で燃やすプルサーマルがあり、さらにトリウムとともに軽水炉で燃やすこともできる。今、世界で注目をされているのはトリウムとともに“溶融塩炉”で燃やす方法だ。

トリウムとウランの廃棄物の違い
出所:筆者提供
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 その理由は、同じ原子力であっても、発生する放射性廃棄物の低減や経済性の向上が期待できるためだ。高速増殖炉では、高速中性子を用いるため、超ウラン元素の生成量は多くないが、プルサーマルでは超ウラン元素の生成量が多い。高速増殖炉の実用化までのつなぎとしてプルサーマルを用いるよりも、燃料調達や運用が確立しているのだから、軽水炉はウラン燃料に特化すればよい。プルトニウムをトリウムの着火材として消費するオプションを提示することで、高速増殖炉の実用化のめどが立たないなか、核兵器転用に対する諸外国の懸念も払拭できる。

 ウランの需給は、福島原発事故が起こってもなお、逼迫している。天然ウランに含まれるウラン235が、唯一の天然の火種だからだ。トリウムの利用は─今後もウラン軽水炉を使うのであれば─、ウランの安定確保にも貢献する。さらに溶融塩炉であれば、安全性を飛躍的に向上できる。 (第2回へ続く)

亀井敬史(かめい・たかし)
立命館大学衣笠総合研究機構・研究員。1970年大阪生まれ。94年京都大学工学部原子核工学科卒業後、99年同大学院工学研究科博士課程認定退学、工学博士。99年天理大学非常勤講師、02年ロームなどを経て11年より現職。著書に『核なき世界を生きる~トリウム原子力と国際社会~』(高等研選書)、『平和のエネルギー トリウム原子力 ガンダムは“トリウム”の夢を見るか?』(雅粒社)ほか

◆WEDGE2011年9月号より



 

  


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