2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年1月25日

 今日の社会では、フェイク・ニュースの類が意外な影響を与えることがある。今日の台湾と中国の関係は、単にビジネスを通じるものばかりではなく、観光客、研究者、学生等種々の面での人的交流が強まっているので、台湾は中国による硬軟両様のハイブリッド戦の対象となりやすい。イグネイシャスは、蔡英文政権の関係者が今回の地方選挙を控え、「親中工作員が毎日、Facebookなどのソーシャルメディアに何千もの偽情報を投稿していた」と述べたとレポートしているが、あながち、誇張とは言えまい。

 他方、上記イグネイシャスの論説は、中台間の軍事的戦闘が両者の間で近く行われると思っている台湾人はほとんどいない、ということも指摘している。

 これまでの中国と台湾の軍事面での対立で代表的なものは、1996年の中国(江沢民政権下)による台湾周辺海域へのミサイル発射であった。(いわゆる「台湾海峡の危機」)。この危機的事態に対抗して、米国(クリントン政権下)は、第7艦隊の空母2隻を台湾海峡に急派し、中国の活動を阻止した。その時、中国は何もすることなく活動を停止したが、これは中国にとっての屈辱となり、その後の中国の軍事力拡大の原因ともなったと言われる。

 今日の中国は軍事的に強大化したとはいえ、公然と台湾に軍事的侵攻をおこなうことは、米国との間の直接的対決になるばかりではなく、国際的に見ても、中国にとって計り知れないほどのリスクを抱え込むこととなる。とはいえ、中国の戦闘機や爆撃機が、演習と称して、台湾海峡やその周辺で軍事演習をおこなう回数が着実に増えていることには引き続き警戒を要しよう。

 蔡英文自身の基本的立場については、「現状維持」を中心軸に据えながら、中国との関係を平和的で健全なものにすることに変わりはなく、台湾人の大多数がこの「現状維持」を支持している。1月14日、昨年の統一地方選挙での大敗の責任を取り頼清徳内閣は総辞職し、蘇貞昌が後継の行政院長となった。蘇貞昌は陳水扁政権下でも行政院長を務めたベテランであり、今回の再登板に際し、国民とのコミュニケーションを強化しながら円滑な政策推進をしていく、といった慎重な姿勢を表明している。

  
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