2024年4月16日(火)

VALUE MAKER

2019年8月3日

一枚板から削り出す

 そうして生み出された定番品のNH−2という商品は、特別な厚みの一枚板から職人が南京鉋(がんな)などの道具を使って削り出していく職人技が光るハンガーだ。幅43センチメートル、厚さ6センチメートルの重厚なもので、紳士用のジャケットなどをかける高級感があふれる逸品だ。販売価格1本3万円(税別)のこのハンガーを作れる腕を持っているのは中田工芸の職人の中でもわずか2人。商品名のNHはもちろんNAKATA HANGERの略だ。

一枚板から切り出された「NH-2」

 左右をつなぎ合わせた通常の作り方で仕上げたAUTシリーズの紳士用スーツかけは、人工工学に基づいて削った滑らかな湾曲が特長で、洋服をかけた時のフィット感にあふれる。4000円から5000円(税別)の価格帯だ。業界の常識からすれば「かなり高い」NAKATA HANGERは、百貨店の紳士向けのこだわり商品のコーナーに置かれたり、高級ホテルのスイートルームで使われるなど、少しずつ知名度が広がっていった。

 そんな「国産」「職人技」へのこだわりが、思いもかけないコラボに結びついた。石川県輪島で、輪島塗の伝統を守り続けている千舟堂から声がかかり、NHに輪島塗を施した最高級のハンガーを作ることになったのだ。付け根の部分に赤富士の蒔絵(まきえ)を施したハンガーは1本15万円(税別)である。

輪島塗の高級ハンガー(中田工芸提供)

 「今では3000円のハンガーだと、安いねと言ってもらえるようになりました」と中田社長は言う。

 中田工芸の個人向け商品の割合は今や4割。全体の売り上げの伸びは小さいが、付加価値の高い個人向け商品の割合が大きくなることで利益体質になっている。だが、今後もファッション業界向けは減少が懸念されている。アパレルの通信販売が広がり、実際の店舗に洋服を展示せずに販売される形が急速に広がっているからだ。店舗で洋服をつるす必要がなくなれば、ハンガーは不要になる。個人向けに力を入れなければ会社の発展はない。

 「世界一のハンガー屋になりたい」。17年、父親の跡を継いで3代目の社長に就任した修平さんは言う。海外展開は父の代からの夢だったが、もはや夢ではない。海外で日本製の商品が注目されているのだ。海外の展示販売会で2日で100本のハンガーが売れるなど、NAKATA HANGERは世界でも知られた存在になり始めている。社長自ら、シンガポールや英国に売り込みをかけている。

 本家本元の英国で、日本製のハンガーを認めさせる─。そんな目標も視界に入ってきた。「会社の規模を大きくするというのではなく、世界一感動してもらえるハンガーを世界に広めていきたい」と抱負を語っていた。

写真・湯澤 毅

  
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◆Wedge2019年1月号より

 

 

 

 

 

 


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