食の安全 常識・非常識

2011年10月12日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 もう一つ、コメに関して重要なのは、玄米と白米の違い。放射性セシウムは葉や茎、米糠などに多く、白米の濃度は玄米に比べ30~50%程度低いという報告が出ています。そのため、もし500Bq/kgの玄米が検査をすり抜け市中に出回ったとしても、精米されれば、放射性セシウムを食べる量は大きく減ります。

 暫定規制値と同じ数値のコメが出た、と聞かされると、ドキッとする消費者の気持ちはよく分かります。実際に、福島産のコメは売れ行き不振に陥っていると既に、報道され始めました。

 しかし、農産物の生産は自然の地形や気象等に左右されますし、生産者によって栽培方法も異なり、植物による個体差もあります。工業製品のように均一化することはできず、どうしてもばらつきを生じます。これらのことを踏まえ、検査が行われています。

 テレビや新聞などのマスメディアは、大きい数字が出ると大騒ぎしますが、ほかの大多数の「問題なし」を取り上げないことも思い出してほしいのです。予備調査で問題が発生したということは、調査が機能していることの証しでもあります。本調査の結果が明確になる前に、「福島県産のコメは危ない」という短絡的な結論に飛びつくことは、慎むべきです。

<牛乳>—チェルノブイリとの比較は、意味がない

 食品の中で、もっとも誤解されたのは牛乳かもしれません。チェルノブイリ原子力発電所事故では、放射性ヨウ素に汚染された牛乳を子どもたちが飲み続けたのが原因で、甲状腺がんの発症率が大きく増加しました。事故で放射性ヨウ素が放出され降下して牧草が汚染され、それを牛が食べて牛乳に濃縮されてしまったのです。事故時に18歳以下であった子どもたちから事故後に5000例近くの甲状腺がんが見つかっています。そのため、福島原発事故後も、「牛乳が危ない」という情報が週刊誌などでたびたび報じられてきました。しかし、それは日本の牛乳生産、つまり「酪農」の実態を知らない故の誤報です。

 まず、日本の酪農は旧ソ連とはまったく違い、ほとんどの場合、牛に屋外の牧草を食ませるような飼育はしておらず、牛舎で飼っています。穀物など栄養たっぷりの「濃厚飼料」と稲わらや牧草など繊維質が中心の「粗飼料」の両方を与えますが、濃厚飼料の約9割は輸入。そして、酪農家の粗飼料自給率は、北海道は53%と高いものの、都府県は17%(農水省2009年調査)。しかも、多くは牧草を春から秋にかけて栽培し刈り取って保管し、牛舎で少しずつ食べさせるやり方です。

 福島原発事故後、農水省も農業関係者もまず、心配したのが牛乳でした。しかし、福島県内では地震災害により乳業工場は操業が停まり、各酪農家からトラックで原乳を集めることも不可能となりました。地震直後から福島産牛乳の出荷はストップしたのです。

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