2024年4月26日(金)

食の安全 常識・非常識

2011年10月12日

「汚染牛乳を混ぜて薄めている」は見解の相違
「まとめて測定」により、数値を確認のうえで飲めた

 原乳については、検査の方式に大きな不信が持たれています。

 原乳は一般に、各農家から乳業工場に直接運ばれるのではなく、各農家の原乳をタンクローリーで集めて「クーラーステーション」と呼ばれる冷蔵保管施設に移し、それからまとめて乳業工場に運ばれます。原乳が乳業工場で加熱殺菌されて牛乳になります。

 検査は、主にクーラーステーション、または乳業工場でサンプリングされて行われました。そのため、一部のメディアなどが「汚染された原乳が運ばれ、混ぜられ薄められている」などと報じたのです。

 たしかに、酪農家1戸ごとの検査結果は、この方式では分かりません。汚染された稲わらを食べさせた牛肉農家と同じように、汚染飼料を牛に食べさせていた酪農家が、当初はいたかもしれません。しかし、前々回で書いた通り、食品中の放射性物質を正確に測定できる分析装置の数は少なく、何でもふんだんに検査できる環境ではありません。効率よく検査を行い、食品の安全性を守る必要があります。そして、クーラーステーションや乳業工場でまとめてはかるからこそ、原乳は全戸検査に近い形で数値を確認することができ、暫定規制値を大きく下回ったり検出限界未満であることを分かったうえで飲むことができる、とも言えるのです。

 牛乳の価格についても考えてみてください。今や、水よりも安いのが牛乳です。たしかに、原乳生産量の非常に多い北海道から本州へまとめて牛乳を運ぶなど、原乳を移動させるケースはありますが、大型タンクローリーで効率よく運ばないと採算がとれません。

 原乳を調べて汚染されていたら他県に移動させて薄める、というような「こまめな作業」に見合うほど、牛乳は高くないのです。それに、汚染原乳をわざわざ、自分たちの原乳に混ぜてリスクを負うクーラーステーション、乳業工場が今時、あるでしょうか? 農業のシビアな経済原理を無視して、“混ぜられた可能性”を云々するのは無責任です。

牛乳を避けて豆乳  別のリスクが大きくなる?

 先日、子どもに牛乳の代わりに輸入豆乳を飲ませているというお母さんの姿が、テレビ番組で紹介され、私は心配になりました。なぜならば、豆乳に多い大豆イソフラボンについては、摂り過ぎによる健康影響を懸念する報告があるからです。

 食品安全委員会は一般的な成人(閉経前女性・閉経後女性・男性)の1日摂取目安量の上限を70~75mgとしています。大豆イソフラボンはその化学構造が女性ホルモンと似ているため、体内で似た作用を及ぼす可能性があり、同委員会は乳幼児や小児については、日常的な食生活(豆腐や納豆などを普通量、食べる生活)に上乗せして摂取することは推奨できない、としています。

 豆乳の大豆イソフラボン含有量は、市販品で100g中20mg程度。子どもが牛乳代わりに飲んでよい、とは私には思えません。

 放射線のリスクを心配して特別な食生活をしていると、思いがけない別のリスクを被る可能性があり、「トレードオフ」が起こりえます。やはり、間違った情報に振り回されるのは問題が大き過ぎます。検査結果はウェブサイト上で公表されていますので、その推移を自分で確認して、冷静に判断してほしいのです。

 後篇では、水産物やキノコ等、ほかの食品について、検討します。

 
参考文献
・福島県・米の放射性物質調査の実施について
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=25236
・農水省・農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/s_chosa/index.html
・独立行政法人農業環境技術研究所における放射能モニタリングの研究について
http://www.niaes.affrc.go.jp/magazine/132/mgzn13210.html
・日本土壌肥料学会・原発事故、津波関連情報
http://jssspn.jp/info/nuclear/index.html
・厚労省・食品中の放射性物質検査について 
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html 
・厚労省・原子力災害対策特別措置法に基づく出荷制限および摂取制限の指示一覧
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001a3pj-att/2r9852000001a3rg.pdf
・日本酪農乳業協会
http://www.j-milk.jp/topics/9fgd1p000001n7ae.html
・農水省・畜産物中の放射性物質の検査結果について
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/seisan_kensa/index.html
・農水省・飼料のページ
http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/index.html
・文科省・放射線モニタリング測定結果等
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/#monitoring_around_FukushimaNPP-dose
・福島県産牛乳について
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24068
・茨城県の原乳調査結果(3月19~21日採取分)
http://www.pref.ibaraki.jp/important2/20110311eq/nousanbutsu/20110323_11/files/201100323_11b.pdf


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