チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年10月3日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 「いまの中国の特徴は、国(権力)がどんどん小さくなって、国民がだんだん大きくなっているということだ」

 2011年9月26日から2日間の日程で開催された第六回日中ジャーナリスト会議の席上、討論を総括した中国側代表の一人は中国の“いま”をこんな言葉で位置付けた。

 言外には、共産党政権のガバナンスの限界を語ったのではないかと思われたが、こんな率直で正確な分析が中国側の代表から聞けたことに軽い興奮を覚えた。

変化する中国側の発言の背景

 この会議は、2000年代の半ばに中国で反日ムードが燃え盛り、日本人の対中感情が大いに損なわれたことを受け、「日中の対話の場を」という目的で生み出された。

 2007年にスタートし、およそ半年に1度のペースで開催され、今回が6回目だ。

 私は第3回から参加し、今回が4回目となったが、驚かされるのは中国側の発言の変化(中国側は日本の変化が大きいと指摘したが)である。それは彼らの背後にある社会が、凄まじい勢いで新陳代謝をしていることをうかがわせた。

 事実、冒頭に引用した発言は、私がこの会議に参加した当初から「共産党のガバナンスの緩みと民意の台頭」という主旨で指摘したことだったが、当時の中国側の代表の一人は、「外国人に心配してもらわなくても共産党はしっかりしている」と、けんもほろろとばかりに一蹴されたのを記憶している。

 これは中国社会が変わったのか、記者を取り巻く環境が変わったのか、それとも複合要因なのか。いずれにしても中国側の代表はみな例外なく「民意の影響力」を非常に強く意識していたのが今回の特徴だった。

「近似」する日中のメディア体質

 変化という意味では、今回の会議で初めて頻出したキーワードもあった。それはジャーナリズムを語る上で中国側代表が盛んに口にした「商業化」という言葉である。

 象徴的だったのは、今後この会議をどうしてゆくべきかというテーマを話し合うなか、大きな焦点となった「クローズドの討論会という従来の形式を改めて内容をオープンにするか否か」という問いに対して、中国側の一人の行った発言だった。その人物は、非公開であるべきだとの立場を示した後、その理由をこのように語ったのだ。

 「オープンにしてしまえば商業化の影響は避け難い。それぞれの媒体はそれぞれ読者や視聴者を抱えている。だから公開となればそうした読者・視聴者を意識した発言にならざるを得ない。そうなれば、この話し合いはただの討論ショーになってしまうだろう」

 つまり、読者・視聴者を意識した発言と自分自身が感じていることに齟齬があり、「商業化」に応えるためにはそれが日常的にも調整されていることを間接的に認めているのだ。

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