安保激変

2019年2月1日

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村野 将 (むらの・まさし)

岡崎研究所研究員

拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

狭まりつつある戦域防衛と米本土防衛の境界、
日本の役割は?

 冒頭で述べたように、2010 BMDRでは「今日、ロシアと中国は米国領土に到達する大規模な弾道ミサイル攻撃を行う能力を有するが、その可能性は極めて低く、米国の弾道ミサイル防衛の対象ではない」として、中露との戦略的安定性への配慮が示されていた。この点については、2019MDRでも「ロシアおよび中国の大規模で洗練されたICBM能力に対しては核抑止をもって対応する」と説明されており、依然として中露からの米本土に対する攻撃をミサイル防衛によって完全に防ぎきろうとは考えていないことがうかがえる。

 しかし、2019MDRにおいて「戦略的安定性」という用語が一度も使われていないことには、それなりの含意があると考えるべきであろう。また北朝鮮への対処を名目として、GBIのような米本土防衛能力を強化していけば、現在75~100基とされる中国のICBM能力が相対的に弱体化されていく(と中国が認識する)可能性もある。更に言えば、極超音速巡航ミサイルやHGVなどの先進的ミサイル技術を保有しようとしているのは中国とロシアに他ならない。これらに対応するための宇宙配備センサーのような早期警戒・追尾能力は、米国のミサイル防衛能力を底上げし、万が一の対中・対露有事において(完全な防御能力にはならなくても)、意味のある損害限定=限定戦争遂行の道を開くかもしれない。

 MDRの発表に際し、マイケル・グリフィン国防次官(研究・技術担当)は、「中国の地域・戦域での極超音速脅威は、それ自体は戦術的なシステムであっても、接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力である以上・・・それらは米国の展開戦力を危険に晒すことができるため、核でなくとも戦略的な影響を持つ」とも述べている。この発言からもわかるように、極超音速技術を含む中露のミサイル能力の多様化、北朝鮮の核・ミサイル能力の長射程化・数量の増加などの安全保障環境の変化は、米国のミサイル防衛政策における戦域防衛と本土防衛の切り分けを難しくさせつつある。

 翻ってこの状況は、米軍の前方展開戦力を受け入れ、その恩恵を受けている同盟国側からすれば、主体的・自主的な努力によって防衛力を高め、自国の周辺を守れるようにすることが、結果的に米国を守ることと不可分になっていくことを意味する。日本が導入するイージス・アショアやSM-3BlockⅡAのセンサー能力・広域防御能力はまさにその一例と言えるだろう。更に、MDRで既定路線となった宇宙能力の強化は、ロシアと中国にとって、これまで以上にノンキネティックな対宇宙・衛星能力を高めていくインセンティブともなり得る。だとすれば、宇宙・衛星システムの受動的な機能保証・強靱性を高めるとともに、(防衛大綱に盛り込まれた)相手の妨害を能動的に抑止・防止する能力の重要性がより高まってくるだろう。

 奇しくも、ミサイル技術の発展による安全保障環境の悪化は、ミサイル防衛システムの発展と、同盟国間の防衛態勢の必然的なシームレス化を促している。米戦略国際問題研究所でミサイル防衛プログラム部長を務めるトーマス・カラコ氏は、「日本は”不沈空母”から太平洋を守る”巨大なイージスの盾”に生まれ変わりつつある」と指摘する。「盾」と「矛」という日米の役割分担を今後どのように調整していくべきかについては、別途広範な議論が必要だ。しかし、「盾」の役割が益々重要になる中で、日本が自国の防衛のみならず、米国や地域の防衛に貢献する能力を持つことは、日米同盟の片務性を是正し、同盟政策における日本の政治的発言力を高める上でもプラスに働くのではないだろうか。

  
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