売れすぎ家具転倒防止器具「不動王」を
開発した団塊エンジニア

神谷哲夫さん(不二ラテックス 精密機器事業部 上席顧問)


池原照雄 (いけはら・てるお)  ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

ヒットメーカーの舞台裏

どんな不況でも、次々と誕生するヒット商品。気になるあの商品は、いったいどのようにして生み出されたのか。舞台裏の開発秘話を丹念に追い、開発者たちの生きざまに迫ります。

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地震時に家具や電化製品などの転倒を防止する。最初の製品は2006年8月に発売し、これまで4タイプを商品化した。昨年までに販売網を拡充したのに加え、東日本大震災後の防災意識の高まりにより、今年4~6月期販売数量は前年同期の約7倍に達している。

 シリーズには、家具などの上部と壁を発泡樹脂と粘着剤でつなぐ「L型固定式」(家具重量115キロまで転倒防止を実証)をはじめ、L型固定式で取り付けを容易にした「ホールド」、薄型テレビや小物インテリアなどを固定する「強粘着耐震シート」、さらに2段重ね家具の上下を固定する「連結シート」がある。実勢価格は、1200円から4000円台。いずれも大学の実験施設などにより、阪神・淡路大震災時の揺れを再現した自主実験を行って転倒防止性能を確認、「震度7対応」を謳えるようにした。

転倒防止器具使用率は3割弱

 不二ラテックスは02年に、子会社で工業用ダンパー(緩衝装置)などのメーカーだった不二精器を吸収合併した。この時に新商品企画室を設置、旧2社の技術を持ち寄って新規分野の開拓に着手した。「不動王」は、不二精器の技術者で初代の同室長に就いた現・制振機器販売室上席顧問の神谷哲夫(64歳)が中心となって開発した。

壁と家具を固定する不動王ホールド。

 ゼロからの出発で、神谷が着目したのは地震対策の製品だった。ダンパーを利用した建物の免振装置や家具などの転倒防止器具について、かつて外部から引き合いがあったからだ。マーケティングの一環として他社の転倒防止器具を調べると、製品の種類はそう多くなく、性能面からも参入のチャンスはあると踏んだ。同時に参入が少ない分「ビジネスとしては難しいのだろう」ということも感じ取った。

 次いで転倒防止器具がどの程度普及しているのかを探るため、神谷は東京消防庁を訪ねた。防災機関として何らかのデータがあるはずと見込んだ通り、世帯別の器具装着率の調査結果があった。

 何らかの防止器具を使っているのは、わずか3割弱だった。これとは別に政府の調査データも確認したが、同様の傾向だった。大地震では負傷の原因が、家具など転倒物によるものが5割程度を占めることも分かった。

 地震動に関する勉強も始めた。母校である明治大学工学部の機械工学の先生にアドバイスを受けることにした。だが、機械の振動と3次元の方向から揺れが加わる地震動は根本的に異なることが分かり、建築学の先生にも協力を依頼した。また、同様に職業能力開発総合大学校とも産学共同での開発体制を取ってもらった。

 こうして神谷は最初の試作品を05年に完成させた。ごく小型の油圧ダンパーを内蔵したL型固定式の器具でタンスや食器棚を壁に固定するものだった。器具は壁と家具にそれぞれ4本のネジで取り付ける方式。ネジの固定だけでも強固だが、加えてダンパーが揺れを吸収する。

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「ヒットメーカーの舞台裏」

著者

池原照雄(いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

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