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2019年2月16日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 新聞社が記事をめぐる遺恨から脅迫されることはままあるが、逆の話は聞いたことがない。米のネット通販大手、アマゾンのCEO(最高経営責任者)、ジェフ・ベゾス氏(55)が自らのブログで、タブロイド紙「ナショナル・エンクワイアラー」から脅迫されていることを暴露した。ベゾス氏の女性問題を報じた同紙の記事について、「政治的動機はないだろう」ーーという声明を出せと要求された。応じなければ、恋人との秘密の写真を公表するという。ベゾス氏は、脅しには屈しないとしてはねつける姿勢をみせている。

(jetcityimage/gettyimages)

 メディアが超グローバル企業のトップを脅迫するというのだから驚く。ナショナル・エンクワイアラーは、熱烈なトランプ支持、ベゾス氏は政権に批判的な有力紙「ワシントン・ポスト」のオーナーと聞けば、背景についての憶測をかき立てるのは自然だろう。トランプ政権の関与を示す証拠はないが、報道のあり方、政権とメディアの関係をも含めて深刻な問題に発展する可能性がある。

「政治的」否定の声明を強要

 ベゾス氏の2月7日のブログ、ワシントン・ポスト紙の記事などによると、エンクワイアラー紙の弁護士らが、ベゾス氏と恋人の私的な写真を入手したこと、何が写っているかを詳細に伝えるメールを送りつけてきた。ベゾス氏の離婚、恋人との関係をめぐる同紙の報道について「政治的動機に基づいたり、政治的勢力に影響されたりしたという根拠はない」との声明を出すのが、写真の公表を見送るための条件だった。

 メディアが、こうした行動に出るのは信じがたいというほかはないが、発端は1月にベゾス氏が25年間連れ添った妻との離婚を公表したことだった。

 エンクワイアラーは離婚表明を受けて、ベゾス氏がロサンゼルスの女性テレビ司会者と親密な関係にあることを、2人が交わしたメールをもとに報じた。

 ベゾス氏は、メールが漏洩したことに懸念と疑念を抱き、警備コンサルタントに調査を命じた。コンサルタントは、ニュース・オピニオン専門のサイトに、エンクワイアラーの報道は政治的動機によるとの見解を示し、ワシントン・ポストは、漏洩元として、恋人の実弟の可能性が強いと伝えた。

 ベゾス氏自身は、「恥をさらし、代償を払っても、恐喝や脅しに屈することなく、彼らが何を言ってきたかを公表する決心だ」と強い姿勢を表明。ブログのタイトルもエンクワイアラーの親会社、「アメリカン・メディア・インク」(AMI)のCEOにあてて、「結構です。でもありがとう。ペッカー氏」(No thank you, Mr.Pecker)として、逆襲に出た。

AMI「誠実な交渉」と反論

 ベゾス氏から「ノー、サンキュー」といわれたAMIのデビッド・ペッカー氏は「報道は合法的になされた」と強調し、恐喝だとするベゾス氏の主張について「氏を取り巻く問題を解決する誠実な交渉だ」と反論した。「迅速、徹底した調査を行い、結論に至った場合は必要な措置をとる」とも述べ、公正を装ったが、要求が容れられなければ、私的な写真を公表するーということが「誠実な交渉」といえるかどうか。

 エンクワイアラーの編集幹部も「写真は取材の過程で入手した。違法行為はない」と説明、ベゾス氏の恋人の実弟も情報を漏洩したという疑惑を全面否定している。

CEOはトランプ氏の友人

 AMIは、ベゾス氏側から探られると都合の悪いことがあるため、脅しに出たのだろうが、「政治的動機ではない」という声明を強要すること自体、「政治的な動機」のにおいがぷんぷん。語るに落ちたというべきだろう。

 AMIとトランプ大統領との関係、大統領とワシントン・ポストの関係、を吟味すれば、今回の問題の背景が浮かび上がってくる。

 ナショナル・エンクワイアラーは、スーパーマーケットのレジなどに並んでいることが多いため、「スーパー・マーケット・タブロイド」と呼ばれ、有名人のゴシップやスキャンダルに強い。

 AMIのCEO、ペッカー氏はトランプ大統領の長年の友人であり、ポスト紙によると、氏は2016年の大統領選で、エンクワイアラーに対して、トランプ氏に好意的な記事を書くよう指示した。これを受けてか、同紙は選挙中、トランプ氏と関係があったといわれるプレー・ボーイ誌のモデルの女性に15万ドル(約1660万円)を支払ってインタビュー。その版権を独占して他社の取材を閉め出してしまったものの、記事が紙面に載ることはなかった。スキャンダルの口封じともささやかれたが、そうだとすれば、〝提灯持ち〟と批判されてもやむを得まい。

 トランプ氏は、この女性とは別に、やはり関係のあったポルノ女優に、口止め料として1400万円を払ったことはすでに報じられている。

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