2024年4月24日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2019年2月23日

子どもが遊ぶ場を作れば、大人の憩いの場、まちができる

近藤幹生教授

 政治施策として、産業構造として課題をはらむ「保育」だが、今後いかなる歩みを見せるのか。著書では、その未来への課題についても触れている。「女性が働き続ける社会となっていく中で、保育園の大事さも社会に広がるようになってきた」と近藤氏は語る。

 「保育園落ちた日本死ね」のブログをはじめ、幼な子を抱える親たちが役所へ行ってわが子を認可保育園に入れたいという願いを直接訴える姿がメディアに取り上げられることで、認可保育園建設への機運が全国的に盛り上がっていった。

 こうした動きから「国・自治体がようやく本腰を入れて保育状況改善に本腰を入れるようになってきた」と評価する。また、社会全体についても「いまだ小さい子どもを連れているお父さんやお母さんが電車の中で子どもが泣き出すと肩身狭い思いをしているけど、小さな子どもをみんなで育てていくという風潮に必ず変わってくる」と期待する。

 この流れは、少子高齢化による人口減少に悩む地域にとっても新たなまちづくりの形となりえる。「子どもたちのための広場や公園を考えていくことは、大人にとってもすごしやすい場所や時間を提供することになり、まちをつくっていくことになる」。子どものためを考えると、じっくりと学んだり、動物と触れ合ったり、という時間が大事ということになる。そうした環境を整え、子どもたちが集まる場所になれば、大人たちもさまざまな人と出会える場所になっていく。

 小さな子どものための地域や広場を作っていくことは、まちを作っていくことにつながるのだ。そうした意味で著書では、「一つ一つの保育園の存在自体が、地域社会においては、かけがえのない宝になることができる」とし、「一人の子どもを預かる保育という仕事から、社会のあり方が見えてくる」と指摘する。

 近藤氏は1978年から保育士、保育園長、2004年から研究者として保育に携わってきた。「1977年まで、男性が保育士の資格をとれなかった。21世紀になって、保育士が男性も女性も同じ国家資格となった。そこから、ようやく20年。保育にまつわる環境がずいぶん変わった」と振り返る。妊娠時には、妻の検診に夫が連れ添うシーンを多く見かけ、出産時に立ち合うことも増えていった。 

 「お父さん、お母さんが一緒になって子どもを育てていく雰囲気になってきた。就学前の子どもたちへの教育に力を入れていくようにもなれば」。保育には、課題が山積な分、発展の可能性を秘めている。

  
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