韓国の「読み方」

2019年2月22日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

不満のマグマを抑え込んできた蓋が外れた

 冷戦期の韓国が安全保障と経済の両面で日米両国に依存してきたが、冷戦終結とグローバル化によって様相が一変したことは前回までに紹介した。ただ日韓関係が難しくなった理由はそれだけではない。韓国が87年に成し遂げた民主化の影響も無視できないのではないかと、私は考えている。

 まず考えるべきは、民主化以前の韓国では弱者の声が注目を集められなかったことだ。前述の朝鮮日報コラムで取り上げられている通り、元徴用工の遺族らが作った団体は韓国社会では相手にされず、日本の支援者に支えられていた。経済開発を最優先の国家課題とする開発独裁を推し進めた朴正煕政権と全斗煥政権では、歴史問題に対する不満は表面化することを許されなかった。しかし、不満のマグマを抑え込んできた蓋が民主化によって消えた。誰でも声を上げられるし、世論の関心をひけば政府も無視できないという社会になったのだ。

 さらに忘れてならないのは、「運動」の担い手側の事情だ。民主化が実現するまでは民主化闘争が最優先で、それに付随する労働運動が盛り上がった程度だった。他の問題に目を向けるような余裕はなかったろうし、人的資源も限られていた。そして民主化が実現すると、そうした運動を担ってきた人々の進路は分かれた。政治の世界に進出した人も多いし、運動とは無関係な市民生活を送る人も多かったが、一部の人は「別の課題」を解決する運動に身を投じた。その対象は女性運動や農民運動、貧困救済などだけでなく、「過去の清算」としての軍事独裁政権下の弾圧や植民地時代の不正義も含まれた。慰安婦支援で知られる韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協、日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯に改名)の設立も、徴用工訴訟の動きが出てきたのも90年である。

 民主化運動を担った勢力は金泳三政権(93〜98年)で本格的な政権参画を始め、金大中政権(98〜03年)、盧武鉉政権(03〜08年)と影響力を強めていった。日本と比べて市民団体の影響力が強いのには、こうした背景がある。

 どんな国だって、独裁より民主社会の方がいいに決まっている。ただ、韓国の民主化にはこうした副作用があったことも知っておいていいだろう。

「目の上のたんこぶ」でなくなった日本

 さらに付け加えるならば、日本はかつて「目の上のたんこぶ」のような存在だったはずだ。冷戦終結によって日本のことを気にしなくても生きていけるようになった、しかもバブル崩壊に見舞われた日本の国力は低下した。もう日本のことなど気にしなくてもいいというのは、かなり気分のいいものだろう。そうなれば反動で、いたずらに強気な態度を取ってみたとしても不思議とは言えない。これは「私にはそう見える」というレベルの話なのだが、あながち外れてはいないと思う。

 一方でよく言われるのは、現在の韓国では日本文化の人気が高いということである。日本政府観光局によれば、昨年の訪日客数で韓国は中国に次ぐ2位で750万人超。韓国の人口は5000万人なので、およそ7人に1人が日本を訪れた計算になる。書店では東野圭吾や村上春樹の翻訳がベストセラーになっているし、日本式居酒屋にいたっては一つのジャンルとして確立された感がある。

 こうした状況をどう見ればいいのだろうか。おそらく日本は、韓国の人々にとって「消費する対象」になったということではないだろうか。旅行や飲食を含む文化消費の対象としての日本は人気なのだが、歴史や政治といった面倒くさい話では日本を遠ざける。自分とは直接関係のない話だから、政治的な葛藤が強まっても強い関心を持つわけではない。元慰安婦や元徴用工には同情して日本非難に同調するが、個人としての「日本消費」とは別次元の問題ということだ。

 ここまで見てきた変化はどれも構造的かつ不可逆のものだ。今後の日韓関係を適切なものとしていくために求められているのは、この構造的変化を直視することだろう。

(次回は、日本側について考えてみます。)


  
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