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2019年2月23日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

(picture alliance/AFLO)

 懸念が現実になりつつある。トランプ米大統領が北朝鮮の非核化について、「急がない」との考えを明らかにした。米朝首脳会談の第2ラウンドまで一週間足らず。この時期に消極的な〝本音〟を明らかにしたとなると、会談の結果に悲観的にならざるを得ない。核問題での進展がないことを糊塗、成功を印象づける手立てとして、連絡事務所の相互設置を共同声明の〝目玉〟とするという観測もなされている。
 
 トランプ大統領の2月19日の発言は、「平壌がミサイル発射、核実験を行わない限り、非核化を急ぐつもりはない」というもの。大統領はその一方で、「多くのメディアは、急げ、急げというが、会談を行うのだから結果を見よう。最終的にわれわれは成功すると思う」と述べ、決着への自信ものぞかせた。

〝政治ショー〟大きな進展おぼつかなし

 このトランプ発言について、昨年6月の第一回会談後、ポンペオ国務長官が訪朝、実務者協議も行われているにもかかわらず、双方の主張の隔たりが埋まっていないためとの見方がなされている。今度の会談で非核化の実現はおろか、そのメドを立てることすらおぼつかないため、事前に〝予防線〟を張っておこうというのが大統領発言の意図のようだ。

 急がないのなら、決着の可能性が少ない会談など行う必要はなかろうが、トランプ大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長いずれも、派手な〝政治ショー〟を必要としている。

 〝ロシア・ゲート事件〟をめぐる特別検察官の捜査終了表明が来週にもなされる見通しであることや、不法移民阻止のためのメキシコ国境での壁建設問題をめぐる民主党と対立などトランプ大統領は苦しい政権運営を強いられている。国民の関心を内政から外交に逸らすことをもくろんだとしても不思議はない。

 金正恩にしても、世界注視の中で、超大国の大統領と対等に話し合い、主要な国際的プレーヤーとしての地位を築いたのだから、会談を継続、それを維持していかなければならない。それが〝金王朝〟の体制に正統性を与える有力な材料になり得る。

成功印象づける「連絡事務所」

 両首脳にとって、結果は二の次としても、双方の国民、世界の注目を再び集めるのだから、少なくとも昨年6月の会談より進展した印象を与えなければならない。

 連絡事務所の設置で合意できれば、十分にその目的を達することができる。連絡事務所は、外交関係をもっていない2つの国が国交樹立を前提に双方の首都に設置する機関。実質的に大使館の機能を担う。

 1972年にニクソン米大統領が中国を訪問した際、米中両国で設置が合意された。昨年死去したブッシュ元大統領(父)は北京での米国事務所長をつとめた。

 連絡事務所は、核、ミサイルの廃棄に直接つながるものではないにしても、少なくとも両国の関係が良好との印象を与え、核廃棄交渉妥結への期待を高める効果をもたらすだろう。
 
 米朝間では以前にも連絡事務所の相互設置が決まったことがある。1994年の枠組み合意だ。北朝鮮の核開発を中止させる米国の最初の試みだったこの合意は、北朝鮮が核兵器に転用しやすい黒鉛減速炉の稼働を中止し、その見返りとして米国などは軽水炉を供与する内容。連絡事務所は合意文の「関係正常化に向けての行動」に盛り込まれ、「両国の関心事項で関係が進めば大使級に進展させる」となっていた。

 この時、北朝鮮はワシントン市内の一等地の場所を求めたが、財政が苦しい状況で適当な物件が見つからず実現を見なかった。米の情報機関がホワイトハウスや議会近くに北朝鮮の出先が設置されることを嫌ったともいわれている。

 そんなことだから、今回も仮に設置で合意したとしても立ち消えになってしまう可能性がある。むしろそれだから、演出材料としては適当ともいえる。

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