2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月27日

 通常、年初1月20日前後に、米国大統領の一般教書演説は行われるが、今回は、予算をめぐるトランプ大統領と米議会との対立で政府が一時閉鎖され、一般教書演説も延期を余儀なくされていた。ようやく折り合いが付き、行政府の閉鎖も解除され、2019年2月5日、トランプ大統領は、議会で一般教書演説を行った。

(dedMazay/iStock)

 トランプ大統領の一般教書演説のテーマは、共に「偉大さを選択しよう(choose greatness)」ということだったが、今まで使用されてきた「America first」(米国第一主義)あるいは「Make America Great Again」(「米国を再び偉大な国に」)を言い換えたものにすぎなかったようである。退屈な演説であった。感銘を受けたこと、印象に残ったことは、ほとんど何もない。2月5日付の米ワシントン・ポスト紙は、「トランプ大統領の一般教書演説は、相変わらず、長々と、古き分断を促すようなデマゴギーにすぎなかった」と題する社説を掲げ、「団結」という薄っぺらな装いを施したものだったと批判している。

 トランプ大統領は、成程、党派を超えて「greatness」(米国の偉大さ)を追求しようと「団結」(unity)を呼び掛けた。しかし、その団結の結び目が綻ぶのは、時間の問題だった。

 まずは、2月15日までに解決を要する「壁の問題」がある。壁と「greatness」がどう関係があるかは解らないが、トランプ大統領の発言に軟化の様子はない。単なるコンクリートの壁ではなく「利口で戦略的で反対側が見通せる鉄鋼の障害物(a smart, strategic, see-through steel barrier)」を作ると言ったのが変化かも知れない。 

 分裂より団結を訴えたはずのトランプ大統領であるが、早速、団結より分裂が露わになった。この壁の問題に関し、どこから予算を出すかということでトランプ政権と議会が対立していたが、トランプ大統領は、2月15日、「非常事態宣言」を発動した。これに対して、同日、議会民主党は、ペロシ下院議長とシューマー上院院内総務が声明を出し、「存在しない危機に関する違法な宣言であり、合衆国憲法へのひどい暴力だ」とトランプ大統領を強く非難した。予算編成の権限が政府ではなく議会にあることも強調し、訴訟も辞さないとしている。

 トランプの一般教書演説では、一つ、聞いたことのない単語が出て来た。トランプは議会に米国互恵貿易法(the United States Reciprocal Trade Act)」の成立を要請した。トランプ大統領によれば、この法律が出来れば、或る国が不公正な関税を米国産品に課した場合、その国の同じ産品に同じ額の関税を課すことが可能になるという。この法案は共和党下院議員のダッフィー(Sean Duffy, R-WI)によって提案されているもので、彼の説明によれば、タイは冷凍のフライドポテトに30%の関税を課しているが、米国の関税は8%である。この法律が出来れば、トランプは報復として30%の関税を課すことが可能になるという。譲許税率を勝手に変更するのでは、WTO (世界貿易機関)のルール違反も甚だしいが、これ以上トランプに関税を振り回すことを、議会はさせるべきではない。 

 もう一つ、上記のワシントン・ポスト紙の社説にも言及があるが、トランプはベネズエラ情勢に無理矢理関連付けた形で、「米国は決して社会主義の国にはならない」と述べた。これは大統領選挙に早々と名乗りを上げた民主党の面々が大きく左に傾斜していることを当てこすったものに違いない。 

 これに対して、民主党は、2月14-16日、首都ワシントンで全国委員会を開催し、来年秋の大統領選挙での政権奪還を目指し、中道穏健派や無党派層の支持を得る重要性も議論された。
 

  
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