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2019年2月24日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

 『ミクロの決死圏』という映画では小型潜水艦ごとマイクロ光線により極小化した医師のチームが人体に注入されて内側から手術を行う、というSFの世界が繰り広げられた。物質を小型化する光線は発明されていないが、ナノ技術などで超小型化したロボットで治療を行う、という試みは実際に進んでいる。

 小型ロボットによる治療方法を開発する企業のひとつである「ヴィカリアス・サージカル」社(以下VS社)がこのほど「ビル・ゲイツ氏のゲイツ・フロンティア財団から1000万ドルの投資を受けた」と発表して話題になっている。

 VS社は米マサチューセッツ州に本拠を置き、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード、スタンフォードといった米国の超一流大学を卒業したエンジニアらが集結して生み出した企業だ。ロボティクス技術とVR(バーチャル・リアリティ)を組み合わせて人間の体を内側から治療する方法の開発を行っている。

VS社ブログより

 同社が開発する小型手術用ロボットは2本のアームを持つヒューマノイド型で、このアームを使って手術などの作業を行う。アームの他にボディ部分にカメラが仕込まれており、このカメラが患部を映し出し、それを医師が見てVRの手法でアームを操作、手術を行う。医師はVR用のヘッドセットを装着、ロボットの2本のアームを自分の腕のように操作することが可能となる。

 VS社のCEOで設立者のアダム・サックス氏は「つまり映画のように医師を実際に小型化して人の体内に入れるような技術を目指している」と語る。この方法は患者の体に小さな穴を開け、そこにロボットを挿入するためのチューブを差し込む形となる。患者にとっても負担の少ない方法になると期待されている。

 ただしこの技術を可能にするためには乗り越えるべき技術的な壁がある。医師が行うすべての動作、患部の切除から血管などの結索、縫合といったデリケートな作業を完璧に行えるよう、ロボットアームの精度を上げることが最大の課題となる。

 しかしこの課題をクリアできれば、この技術にはVRを使うが故の大きなメリットがある。その最大のものが遠隔操作だ。ロボットさえ備えてあれば、例えば過疎地などで大掛かりな手術が不可能な施設でも、遠隔操作により医師の手術を受けることができる。海外にいても、いつでも医師によるVR手術が可能となる。サックス氏はこれを「医療用ロボットによる治療の民主化」と呼ぶ。

 ロボットによる外科的治療は世界中で開発競争が激しくなっている分野だ。アライド・マーケット・リサーチ社によると医療用ロボットの市場規模は現在900億ドル規模に成長している。今年に入り、ジョンソン&ジョンソン社がロボティクスによる肺がん診断及び手術アシストロボット制作会社、オーリス・ヘルス社を34億ドルで買収するなど、大手企業による進出も目立ち始めている。

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