WEDGE REPORT

2019年2月28日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

 マイアミを訪れているときに、トランプ大統領がフロリダ国際大学を訪れ、ベネズエラ向けの演説をした。ベネズエラ、キューバ、ニカラグアなどのラテン系の票を確保するのが狙いだった。けれども、「社会主義の腐敗が国を崩壊させる」という内容はすべて事実であり、かつ、ベネズエラ人ではなくては知りえない、故チャべス大統領を皮肉る言葉などを入れ、彼らの琴線に触れるものだった。では当のベネズエラ人は最近の祖国の緊迫した情勢をどう思っているのだろうか? マイアミから報告する。

マイアミのベネズエラコミュニティで演説したトランプ大統領(AP/AFLO)

アメリカがクーデターを画策してほしい

 イシドロ・パテーニョ(40代前半)は、2008年~13年にかけて筆者と同じ釜の飯を食べた同僚であり、ベネズラのカラボボ州のバレンシアの政府系企業、プエルト・カベージョ港、カラカスのマイケティア空港で、当局と難しい交渉に当たってきた。いまだベネズエラ国内に留まる僅かな友人の一人である。昨年から何度か対話を試みている。

 「インフレはどうなっている?」

 「ひどい。アリーナ・パン(主食のアレパを作るトウモロコシの粉)は、統制価格だと740ボリバレス、つまり昔の7億4000万ボリバレスのことだけど、それも手に入らないから闇で買う。すると、25万バリバレスだ。以前のお金では250億ボリバレスさ、もう気違い沙汰だよ。君が持っている1万ボリバレスは記念品の意味しかないね。ハハハハ。配給? 月に2、3回だよ。それに、知っているだろう。メキシコの件…」

 配給品の食品の一部はメキシコから輸入していたが、その中に期限切れのものが多く入っていた。すなわち政府の担当者が実際価格よりも安価に購入し、書類上では正規の価格を記入し、その鞘を抜いていたのだ。ベネズラでは、腐敗した役人の常套手段。メキシコでもスキャンダルとなった。

 「港の利権は副大統領のタレク・アイサミが継承した?」

 「ああ、この付近はすべて彼が取り仕切っているよ。アラブ系ばかりになった。薬品、食、金、銅、鉄、石炭、みな彼らが商売をして、この国の富を根こそぎにしているよ」

 プエルト・カベ―ジョ港は昔、やはりシリア系のコカインマフィアであるワリド・マクレッドが取り仕切っていたが、彼がコロンビアで収監されたあと、港は軍の管轄になり、そして別のコカインマフィアであるレバノン・シリア系のタレク・アイサミが利権を手に入れた。アイサミは諜報機関であるSEBINの長でもあり、反対派を刑務所に送ったり、殺害する命令を発している。
 
 「コカインの利権も3人で分け合っているのか?」

 「そのとおりだ。アイサミ、マドゥロ、ディサード・カベ―ジョだ。もっとも麻薬はベネズエラはただの通過点、つまり中継貿易の拠点で入って出るだけだけど。国内で麻薬を入手したい人間はもう高くて手が出ない。なにせ、ベネズエラ人が優先するのは、いかに朝飯と夕飯を食べることができるかということだから。悲しい話だ」

 ディオサ―ド・カベ―ジョは軍人上がりで、チャべス派が勝手に作り上げた制憲議会の議長。麻薬関係のカルテル・デ・ソ―レスを取り仕切っている。一方ベネズエラには選挙で選ばれた政治家たちの国民議会がある。その議長が暫定大統領を宣言したフアン・グアイドである。

 「PDVSA(石油公社)の生産はどうなっている?」

 「稼働率はせいぜい30%あるかないかじゃないかな。もはや車のガソリンもグリスも手に入れるのは難しい」

 「仮想通貨のペトロはどうなっている?」

 「そんな仮想通貨はない。誰も信じていないし、裏打ちがない。マドゥロがデノミをはじめとする経済政策の失政を隠すためにでっち上げた幻想さ。あれもこれも失政だらけだ」

 「キューバ人たちはどうなっている?」

 「もう普通のキューバ人たちはいない。残っているのはG2(キューバの情報機関)の連中で、諜報機関や軍隊に入り込んで指示を与えている。今ならクーデターは簡単だろうけど、まだ軍隊は動かない。国境の援助物資がどうなるか…。マドゥロは受け入れようとしないし、ディオサ―ドは銃弾を撃ち込んでやるといっているよ。ハハハハ」


 「コレクティーボ(チャべス派民兵組織)はどうしている?」

 「みんな軍服を着ているよ。奴らは平気で自国民を殺すし、支援物資を入れようとする人に襲いかかるだろう。彼らが寝返ることを望む」

 コレクティーボはオートバイを使うことが多く、後部座席に乗った人間が機関銃を持ち、自国民を襲う。いわゆる犯罪者の手口である。

 「ベネズエラの美人はどうしている?」

 「ほとんど国を出たよ。今コロンビアでは女の戦いがある。ベネズエラの娼婦がコロンビアの夫をとってしまう。コロンビアの妻は戦々恐々としているよ」

 「ミラフレーレス(大統領官邸)にはサンテーロ(黒魔術師)が来ているだろう?」

 「いや、ミラフローレスにマドゥロは住んでいないよ。住んでいるのはチャべスの娘たち、ローサ・ビルヒニア、マリア・ガブリエラ だよ。チャべスの時代はキューバからサンテーロが来て、ニワトリを殺して軍人たちと儀式をやっていたけど、今やっているのは豪勢な飲めや歌えやのパーティさ」

 チャべスの娘たちは官邸にプライベートの映画館やプールを設え、世界中の有名ミュージシャンを呼んで友人たちと豪勢なパーティ三昧だという。私の見るところ、チャべスの死の真相(公的にはベネズエラで死去。実際はキューバ)他、現政府の不都合な事実を多々知っており、口止め料もたんまりともらい、誰も逆らえないのである。マリア・ガブリエラは4000億円前後の資産を持つという。

 「君が防弾チョッキのようなものを扱っているのなら、マドゥロにプレゼントするのはXXXLだな。随分太ったからね。シャンゴ(アフリカのヨルバ系の戦いの神。最後は民心が離れ自殺する)の血で染まったものがいいな。ハハハ。ぼくの見るところマドゥロは今はプレッシャーで眠れないだろう。チャべスと同じ道を辿るよ」

 「アメリカには何を望む?」

 「こうなったら、アメリカがクーデターを起こすのをのぞんでいるよ。でもその前にディオサードがマドゥロを殺して、軍を統率するかもしれない。いずれにしろ、アメリカの一番の協力は、ベネズエラ政府の人権への罪、コカイン密売への罪を理由にクーデターを画策してくれることだよ。マドゥロと対話などできないことは誰もが知っている。でも、もし選挙をやるならば、その前に政治犯を釈放し、選挙委員会を解散し、新たな人員を専任することだ。それでなくてはいつもと同じインチキ選挙になるからね。でも、どれもこれも難しいな。軍次第だよ。トランプは軍人への制裁を緩めたし、彼らはコカイン他の腐敗で蓄財した金を守ろうとするだろうから、マドゥロから離れて行くはずだよ」

 「トランプのほうが追いつめられるのでは?」

 私が心配しているのは、国境で治安部隊に一般のベネズラ人が殺害されるだけで終わるという最悪のシナリオだ。トランプの「マドゥロについた軍人はすべてを失う」という言葉は、幻想に終わり、彼のほうがラテン票を失うことになる。だからといってアメリカが軍事侵攻するような真似はできないし、やるべきではないだろう。人命他のリスクが多過ぎるし、中南米諸国の支持を失ってしまう。

 「君が幻想に終わるといっても、多くのベネズエラ人はマイアミでのトランプの演説に勇気づけられているよ。22日(コロンビア国境でベネズエラ支援コンサートがある)か23日には何かが起こるとみな期待している。つまり軍がマドゥロを裏切ることを」

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