WEDGE REPORT

2019年3月10日

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 経済ジャーナリスト磯山友幸氏による、月刊Wedge連載「地域再生のキーワード」では丸4年全国48カ所をめぐってきた。このほど、連載のなかで登場していただいた方々を中心に集合していただき、「未来を創る財団」(國松孝次会長)主催で「地域おこし人(じん)サミット」を開催した。ここでは、それぞれのキーマンのプレゼンを紹介していく。

 今回のテーマは「官民協働が生み出す新しい出会い」。日本中にシャッター商店街があふれる中で、奇跡と呼べるような運用をしている高松丸亀町商店街の理事長・古川康造氏、佐賀県で企業ならぬNPO法人等の誘致を行っている佐賀県職員の岩永幸三氏を中心に、議論を紹介する(コーディネーター:イノウエヨシオ氏)

(eggeeggjiew/Gettyimages)

町づくりで重要な「土地問題」をどう解決するか

古川氏 「官民協働」とは何かという中で、まず民がやるべきことに視点を置いて私のご紹介をさせていただきたいと思います。

古川氏(写真・生津勝隆)

 町づくりにはいろいろなやり方がたくさんあろうかと思いますが、どんなやり方も結局、行き着く先は必ず「土地問題」です。地権者が首を縦に振らなければもうそれまでというぐらい、我が国は土地の所有権は最強のものと言えます。

 土地問題というのは、実は全国共通の最も頭の痛い課題です。「誰もができなかった地域の土地問題をどうも四国の田舎商店街が解決したんだ」ということで、国内のみならず、海外の皆様からも随分注目いただいています。

 私どもはまずこの商店街の生産性を高めるために、今までアンタッチャブルだった土地問題を解決しようと、定期借地権を使ったエリアマネジメントという仕組みをつくりました。再開発事業と言うと、箱物整備のように思われがちですが、私どもの取り組みが最も高評価をいただいたのは、新しい町の運営の仕組みを作ったからです。

 地権者の皆さんが土地を提供してくれないと、結局は何もできません。しかし、過去の一般借地権は、その土地を有効活用しようと思って貸してくれとお願いしても、貸した方に権利がつきます。土地というのはいったん他人に貸すと、もう二度と手元には返らない。これが我が国の定説です。

 具体的には、定期借地権を使った土地の所有権と利用権の分離を図りました。わかりやすく言うと、地権者全員同意で、限定60年だけ、土地の所有権は失わずに利用権だけを全員で一斉に放棄して、その上でこれから迎える高齢化社会・人口減に対応する新しい町づくりの絵を描きましょうという計画です。

 私どもの商店街は南北470メートル、それを七つの街区に区切り、それぞれに役割を持たせました。現在、A・B・C・G、それからドーム、広場が完成いたしました。残りのD・E・F街区のうち次の街区にも着手という段階に参ります。現在進行形の計画であるということです。

 これから迎える高齢化社会、人口減の中で、役所もいかに都市を正しく縮めるか、行政コストの削減を図って、むしろ中心部の、既にインフラ整備の終わっている土地の有効活用を図らないかぎり、もう自治体の財政はもたないような時代がやってきていると感じます。

 従って、私どもの計画は商店街の再生計画ではなく、大きく郊外に拡散してしまった人々をもう一度ダウンタウンに集積させるものです。実際にやっている事業は、業種の再編成と住宅整理。各街区の上にはマンションを建設し、この商店街を核に、2万人をこのエリアに集積させましょうという計画です。

 A~G七つのエリアそれぞれの街区に町会があります。このそれぞれの街区の町会が最小のコミュニティーの単位です。この単位ごとに地権者の共同出資会社をつくり、その会社と地権者が60年の定期借地権の設定をすることによって、土地の所有権は失わずに利用権だけを放棄して、その上に自分たちの共同出資会社が共同ビルを建てます。

 ただし、地権者の皆さんにビルの運営能力はありませんので、新たに町づくり会社をつくりました。社員はすべてプロです。商業ビルの運営管理者は施設管理者、テナントを誘致して、専門部隊、販促のプロ。かなりスキルの高いプロの人たちをプロパーの社員として雇用した町づくり会社が地権者の共同ビルの運営委託を受けています。

 いかにこのエリアにもう一度居住者を取り返すか――。そのために業種の再編成の選定基準を商業者の目線に置くのではなく、生活者の目線に置きました。つまり、年を取れば丸亀町に住んでみたいよね、と言われるような、特に高齢者にとってこれでもかというぐらいのパラダイスを、いかに合理的にスピーディーにつくり上げるかということです。

「ここなら生活してみたいよね」と言われるような町づくりを

 そもそも私どもの町の衰退の大きな要因はバブルでした。当時、地価が高騰して、商店街近辺の月決めの駐車場が月額1台5万5000円ぐらいまで跳ね上がったんですね。もうとても人の住めるような状況ではなくなって、人々は大きく郊外に拡散して、見事な空洞化が起こりました。

 それに合わせて役所はどんどん郊外開発を進め、揚げ句に、市街化調整区域の全廃。都市というのは不用意に郊外に広がらないように規制ラインが引かれていますが、あろうことかこれを全廃しまして、都市は爆発的に大きく郊外に展開してしまった。

 そして、急速に人口減が始まりました。そうすると、全体を支える行政コストはもう明らかに捻出できない。そのような中でもう一度人々をどうやって集積させるか。規制をもって町の中に集積させるなんて絶対にあり得ない。であれば、ここにパラダイスをつくりましょう、「ここなら生活してみたいよね」と言われるような町づくりをやりましょう、ということです。

 生活者を取り返すには、彼らが快適に生活のできる場所でなければなりません。住宅を整備し、病院を開設し、介護施設をつくり、生鮮品の新しい流通の仕組みの市場の開設、広場の整備、ホームセンターの誘致、温浴施設等々、これらの整備が整うと、これからダウンタウンで生活する特に高齢者を中心に、以後、一切車に依存をしない、すべて歩いて事が足る、しかも安全・安心な都市生活が送れる場所を提供できることになり、人々は間違いなくこの町に帰ります。

 現在、マンションを整備しておりますけれども、つくればつくるだけ完売、予約数も既にたまっています。それから、ようやく民間投資が始まり、現在中心部のエリアに5棟の大きなマンションができていて、すべて完売です。

 これは、明らかな高齢化社会を迎える中で都心への回帰現象が起こっているということです。この受け皿をいかに早く整備するか。これから先の高齢化社会は、恐らく郊外部で生活を強いられますと、まず満足な行政サービスはもう得られない、車がなければ一切何もできない。それはイコール誰かに頼らざるを得ないということになります。

 居住者さえ帰れば、商店街なんて放っておいても勝手に再生していくんです。これはまさに商売の大原則である、需要があれば必ず供給が後から付いて回る、ということで、現在このような戦略に基づいて粛々と事業が進行しています。

市役所との関わり方

古川氏 高松市役所は、10年ほど前に市長が代わり、一気に風通しが良くなって、今は官民のバランスを保てています。それまでの最大抵抗勢力はまさに市役所でした。決して非難するわけではありませんけれども、役所は基本的に総花の計画しかつくれない組織なんですね。どこか1カ所に集中投資なんてできないですから。それから、どうしても4年に一度のみそぎのある組織になります。これが長期にわたる町づくりをやるというのはものすごくハードルが高いですね。

 役所には優秀な人たちがいっぱいいるんですけれども、やはりこれは能力の問題ではなくて、社会の仕組みとして、役所主導ではなかなかこういう時代を乗り越えるのは難しい。だから民間主導でやって、それを役所が側面から支えるという構造をつくらない限り、本来の官民連携というのはなかなか難しいと思っております。

イノウエ 官民連携を皆さんたちでやるというのがこのテーマですが、民間主導でいかに官のほうを巻き込んでいくか、というイメージで捉えられたと思います。

イノウエ氏(写真・生津勝隆)
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