世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年3月11日

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  トランプ政権はイランに対する経済制裁を強化するとともに、国際的なイラン包囲網を形成しようとしている。2月14日にポーランドの首都ワルシャワで開催された国際会議で、ペンス米副大統領は、1979年のイラン革命を振り返り、イランについて「腐敗、抑圧、テロ及び失敗の40年間」と形容し、「世界のテロの主要な支援国」であると厳しく非難した。欧州諸国に対しては、イランへの制裁を強化することを求めるとともに、米国に続いて、2015年のオバマ政権当時に、イランと「P5+1」(米英仏露中と独)が結んだ「イラン核合意」から離脱することを促した。 

(GlobalP/nevarpp/Hermsdorf/iStock)

 トランプ政権のイラン制裁強化は、5月のイラン合意からの離脱に伴うものであるが、イランのミサイル開発や中東のテロ組織支援といった敵対的行為を止めさせることが目的であると説明している。 

 しかし、トランプ政権のイラン敵視政策は、イランの政権交代を視野に入れているのかもしれない。イラン経済は困難を極め、国民の不満は鬱積しており、「史上最大の制裁」を加えれば、政権がもたないのではないかと見ている節がある。 

 なるほどイラン経済は困難を極めている。イランの通貨リアルの価値が、昨年5月にトランプ大統領がイラン核合意からの離脱を発表して以来、半減して、輸入品の価格が高騰し、食料と飲料の値段が昨年の1~11月に60%上がっている。失業率は約13%だが、若年層に限ると3割近くと見られている。 

 しかし、イラン経済の困難の原因総てが経済制裁にあるわけではない。イラン経済自体、多くの問題を抱えている。銀行制度の不備がその一つで、不良債権が巨額に上っているという。紙幣の増発自体がインフレを招いている。 経済活動の多くが国有企業の手にあり、国有企業は、政府から莫大な補助金を得ており、鉄鋼と石油化学で年400億ドルに達するという。 

 このような状況の下、国民の不満は募り、抗議行動、ストが頻発している。抗議運動は、鉄鋼、サトウキビ関連などの労働者のほか、農民、学生、教員なども参加して広がりを見せている。昨年末から約1週間、全国80の都市や町で一斉に大規模デモが行われた。 

 注目されるのは、イラン国民が単なる経済苦境の救済を求めているのではなく、イラン社会の変革を求め始めていることである。今やイランの人口のうち6割は1979年のイラン革命後に生まれ、革命を知らない世代であるという。彼らが革命の意義や僧侶階級の支配について、革命を体験した世代とは異なった見方をしてもおかしくない。彼らは、SNSなどを通じ世界を知っているし、イランの統治体制の変革を求めても不思議ではない。 

 経済的困窮に対する抗議運動の高まりや、変革を求める動きは、イランに体制の変更をもたらすか。イランの識者のなかには、現状を「革命前夜の状態」と言っている者もいるようだが、イランの指導層はこれまでも何回か危機を乗り越えてきた。 

 それに、革命防衛隊を中心とする体制は、簡単に揺らぐとは思えない。また、イランの統治体制の変革を求める若い世代も、急速な変化ではなく、漸進的な変革を望んでいるとのことである。そのうえ、トランプ政権が制裁で圧力を強化すると、当然のことながら、反米意識が高まる。経済的、社会的問題の批判の矛先が米国に向けられることになる。 

 トランプ政権の圧力の強化は、イランの支配体制を揺るがせるどころか、逆効果をもたらす可能性が強い。近い将来に体制の変更がもたらされるとは考えにくい。もう少し粘り強く、時間をかけ、米国が、英仏独等西側諸国と協調しながら、イランの変革を求めて行くことが望ましいが、現在のトランプ政権にそれを求めることは難しいだろうか。
 

  
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