2024年4月24日(水)

栖来ひかりが綴る「日本人に伝えたい台湾のリアル」

2019年3月7日

日本人に伝えたい「台湾料理」の正体

 わたしの一番好きな朝ご飯の鹹豆漿(塩気のある豆乳スープで、酢の化学反応により茶碗蒸しのようにプルプルしている)だって実は戦後に台湾で発明されたと言われているし、牛肉麺だって戦後に四川から台湾高雄に移民してきた元軍人さんの発案ということで、これも今や立派な台湾料理として数えられる。結論をいえば、台湾料理とは他の文化の流入を受けながら絶えず更新されているものであり、冒頭のショウロンポーだって「台湾料理」といっても差し支えないのかもしれない。

おかず味の豆乳スープは朝ご飯の楽しみ(写真:筆者提供)
牛肉麺は戦後、台湾高雄が発祥の地(写真:筆者提供)

 小籠包ひとつとっても、これだけ複雑な履歴が背景にある。台湾で食事をするときに少しでもこれらの歴史に思いを寄せれば、旅はいっそう深く広がりのあるものになるに違いない。

 台湾だけではない。メソポタミア地方で紀元前八千年ごろから栽培されるようになった小麦が、シルクロードを渡ってウイグル・モンゴルを経て唐の都までつたわった。かつて「饂飩」とは小麦粉を利用した食べ物すべてを指したという。そこから丸く伸ばして肉やら野菜やらを挟むようになったのが餃子で、イタリアでラビオリに、ロシアでぺリメニに、トルコでマントゥにモンゴルではボーズになった。

 そこに広がるのは、さいきん話題となっている「日本料理の名人を海外の日本料理店に客として潜入させ、さいご水戸黄門のように間違いを正す」というような馬鹿げた「日本スゲー」系テレビ番組なぞには、到底およびもつかないような豊かさを湛えた食世界なのである。
 

栖来ひかり(台湾在住ライター)
京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。日本の各媒体に台湾事情を寄稿している。著書に『在台灣尋找Y字路/台湾、Y字路さがし』(2017年、玉山社)、『山口,西京都的古城之美』(2018年、幸福文化)、『台湾と山口をつなぐ旅』(2018年、西日本出版社)がある。 個人ブログ:『台北歳時記~taipei story』

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