サムライ弁護士の一刀両断

2019年3月8日

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河本秀介 (かわもと・しゅうすけ)

弁護士

敬和綜合法律事務所所属。
東京大学卒業後、三菱重工業での勤務経験を経て、2007年に弁護士登録。
以後、会社関係訴訟、企業経営への助言、株主総会指導、M&Aアドバイスなど、コーポレート分野を中心に、幅広い内容の業務を遂行している。

 日産自動車の前会長であるカルロス・ゴーン氏の刑事裁判は、3月6日、ゴーン氏が保釈されたことで新たな局面を迎えました。

 報道によると、ゴーン氏は保釈に際して、保釈金10億円を納付したとされています。また保釈にあたっては、事件関係者への接触や日本国外への渡航が禁止されているほか、自宅玄関付近に監視カメラを設置することや、パソコンを使用する場合には平日の日中に弁護人の事務所に行くなどといった詳細な条件が付けられたということです。

 ゴーン氏が保釈されたことについて、国内では「異例」という見方がある一方で、海外メディアなどからは、ゴーン氏が既に108日間という長期間にわたり身柄を拘束されたこと自体を疑問視する反応もあるようです。

 さて、今回の裁判所の判断は、2つの点で「異例」だと言えるでしょう。

 そして今回の判断は、今後の日本の刑事司法のあり方の分岐点となる可能性のあるように思います。

作業着姿で現れたゴーン氏(REUTERS/AFLO)

公判前整理手続前の保釈という「異例」

 まず、1つめの「異例」は、被疑事実を否認しているゴーン氏について、公判前整理手続が開始される前というタイミングで保釈が認められたことです。

 保釈とは、被告人が起訴された後、保釈金(「逃げない」という担保のためのお金)を裁判所に預けたうえで、判決まで身柄を釈放するという手続です。

 被告人側から裁判所に保釈の請求があった場合、検察官はこれに意見を出します。被告人が否認しているような場合には、少なくとも被告人側からどのような主張や証拠が出てくるのかの見極めができるまで、罪証隠滅のおそれなどを理由に保釈に反対する意見が出されるのが通例です。

 裁判所も検察側からの反対意見などを踏まえ、ある程度審理が進むまでの間、罪証隠滅のおそれなどを理由に保釈を認めないことが多いです。

 さてゴーン氏ですが、既に金融商品取引法違反と特別背任罪の2件で起訴されているのですが、まだ一度も公判(法廷での審理)が開かれていません。それどころか、第1回公判期日(いわゆる初公判)が開催される時期の見通しも立っておらず、場合によっては初公判が翌年に持ち越されてもおかしくない状況です。

 重大事件の場合、検察官と被告人・弁護人が初公判の前にお互いの主張を提示し、何が争点となるのかを事前に協議したうえで審理の計画を決める手続(公判前整理手続)が取られることがあります。複雑な事件の場合には、公判前整理期日を何度も繰り返したうえで、初公判を迎えることも珍しくありません。

 ゴーン氏の場合も、今後、公判前整理手続が実施されることが予定されています。すなわち、検察側としては、被告人であるゴーン氏側からどのような主張や証拠が出てくるのか、現時点では知らないし、予想も難しい状態だと思われます。

 そうすると、現時点での保釈請求に対しては、検察側から非常に強い反対意見が出たであろうことは容易に想像できます。

 裁判所は、強い反対意見を押し切る形で保釈を認めた格好になりますが、このような裁判所の対応は、現在の日本の刑事司法の実務からは「異例」といって過言でないでしょう。

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